煌めくアイオライト
突然ですが、担任の岡田先生の堪忍袋の緒が切れたらしい。
「だああ!起きろエース!」
「ん、だよ…。」
「だから授業中に寝るなって!お前の眠り癖どうにかしろって他の先生達からも散々言われてるんだぞ!」
「だって眠くなんだから仕方ねェじゃん」
「そうやって机にへばりついてるから眠くなるんだよ!もっとシャキっとしろシャキっと!」
「俺が背筋伸ばしたら後ろに迷惑がかかると思いまーす」
エースの間延びした声に、黒板消しを持つ先生の手がプルプルと震えている。
まあでも一理あるよね。たしかにエースがぴんっと背筋を伸ばしたら後ろの列の子たちは黒板が見えなくなるかもしれない。背でかいし。ガタイもいいし。
だけどそれが理由で居眠りが許されるかって言ったら話はまた別だと思う。
「………よし、お前の言い分はよぉーくわかった」
「おっ?なんだよ物分かりいいな岡ちゃん!」
「席替えするぞ」
「……は?」
「エースお前最後尾固定な!教卓からよく見える窓側の最後尾!」
そう言って勢いよく黒板消しを置いた岡田先生に、教室中からわあわあと喜びの喝采が沸き起こる。そりゃそうだ、席替えっていったら学生たちのBIGイベントだからね…!しかもこの流れで言うと思いっきり授業潰れるし!いぇーい!なんて例に漏れず盛大にワクワクしていると、背後からぐるっと首に腕を回され、一瞬変なところで息が詰まった。ぐえっ!
「ちょっとネネ!くるし…!」
「もー!せっかくなまえと前後だったのにエースのバカー!」
「お、落ち着いて!」
「だって!」
「ほら、もしかしたらもっかい前後の席になれるかもだし…ねっ?」
明るい髪をゆるく巻いて、ふわりと前髪をポンパドール。今日も最強に可愛いネネ様を精一杯説得すれば、渋々その場はエースへの激昂を抑えてくれた。
が、しかし―――。
「よっ!前後同士仲良くしよーな、なまえ!」
そう、まさかの偶然で今度はエースと前後になってしまった。なにこのミラクル…!
「仲良くするもなにも既に仲よしじゃんアンタら!あーもう!なんでなまえの後ろがエースなの!近くの席ずるいー!」
「仕方ねえだろ俺に関しては最初からこの席固定だったんだから…。」
身を乗り出してギャンギャン騒ぐネネに、珍しくエースが押され気味だ。その証拠に、横目でわたしを見ながらどうにかしてくれと口パクで助けを求めてくる。…うむ、仕方ない。ここは助け舟を出してやるとしよう!
「でもネネの斜め前キッドじゃん!やったね!」
「そこはまじで嬉しいよね!超目の保養!」
「存分に堪能しといで!」
あのサボり魔あんまり席にいないけど、とは決して口に出さない。
「……まあそれに考えようによってはオイシイ気もするわ前後席のアンタら!」
「ん?俺?」
キョトンとしたエースを見てさぞかし嬉しそうに笑うネネに「またそれか…。」と大きく首をもたげる。
「じゃ、わたし席に戻るからあとはごゆっくり〜!」
そういって嵐のように去っていったネネの後ろ姿をぼけっと眺めていると、不意に肩をトントンと突かれる。えっ、なに?
考えるよりも前に、反射的に後ろを振り向いた。するとまあ。
「どーした、ぬっ!」
「っ、痛ってえ!」
勢いをつけ過ぎたのが災いしてか、待ち構えていたエースの人差し指がありえない威力でほっぺにブッ刺さった。ま、まじでなにしてくれてんだ…!
「ちょっ、痛いなバカ!」
「それはこっちのセリフだバカ!」
「ほっぺに風穴が空いたらどうしてくれるの!」
「その前に俺の指が折れるっつーの!どんだけ素早く振り向いてんだよ!」
人差し指を擦りながら、うっすら涙目で非難してくるエース。
でもだってまさかこんな小学生みたいなワンクッション入れてくると思わないじゃん!しかもマンマと引っかかってちょっと恥ずかしかったじゃん…!
ほっぺを抑えながらそんなことを思っていると「最後余った時間で小テストするから前向けー」と疲れ切った岡ちゃん先生の声が響く。
うええ、まだ授業やるの?自習でよくない?
そう思いつつ前を向き直すも、周りは未だガヤガヤと騒がしい。
そんな中、背後から顰めた声で「なまえ」と呼ばれた。
「なに?」
「俺、お前と席近いの結構嬉しいんだけど」
「なんだその突然のデレ」
「思ったから言っただけ」
「へえ」
「おまえは?」
「んー。卵割って黄身が2つ入ってた時と同等の嬉しさって感じ」
「やべえじゃん!それすげえ嬉しいってことじゃん!」
前を向いたまま話しているため顔は見えないけれど、絶え間なく聞こえてくる楽しそうな声に思わず笑ってしまった。
「じゃあ俺はアレだ!ピノ開けたらハート2つ入ってた時並みに嬉しい」
「何それ泣くほど嬉しいってことじゃん!」
「黄身2個もなかなかだけどな!」
「「……ぶふっ」」
ああ、今日も平和だ。
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席替えで前後になりました(*´`*)