「で、どうなん?」
「……はい?」
お弁当に入っていたプチトマトを咀嚼していると、一緒にお昼ご飯を食べている友達の一人、ユキちゃんが唐突にそんなことを言い出した。
いやでも、急に「どうなん?」とか言われてもなんのことなのかさっぱり…。
「あ、わたしも聞こうと思ってん!どうなん、なまえ!」
「え、しょこたんまで…!何、さっきからなんのこと?」
変化球の嵐に耐え切れず思い切って尋ねてみると、ニヤリと意味ありげな笑顔を浮べた二人が揃いも揃ってわたしの隣にある机を指差したではないか。
そこでようやく話の脈絡を理解。なるほど、財前くんのことか。
「どうなんって聞かれても別に何も…、」
「せやけどなんや仲良さそうやったやーん」
「なー!数学の時間とか財前くんなまえの方見てにこってしとったし!」
「いやいやいや!あれはにこっじゃなくてにやりでしょ!」
どうやらあのニヤリ顔も周りから見たらただの王子様スマイルに過ぎないらしい。
うわあ、恐るべしイケメンフィルター…!
そんなことを思いつつミートボールを口に突っ込めば、財前くんの席に座るユキちゃんが顔を寄せてきて、声を潜めながら「でもさ、」と話し出す。
「なまえ前に財前くんかっこいい言うてたやん?」
「…ああ、まあ、うん」
「ほんならこれを機に財前くんのこと好きになってまいそうー!みたいなことは、」
「な、ない!それはないよ!」
そりゃあ財前くんは前も今も変わらずかっこいいと思う。
だけどあの激ジャイアニズムはちょっと……あ、でも変に律儀なところもあるんだっけ。飴とかくれたもんなあ、うん。
………いや、いやいや!でもだいぶ失礼だし!名前知らないとか本人に直接言う?!って話だし!
うん、やっぱりないな。ないよ、ないない。
「うん、ない……と思う」
「ふーん」
「へえー」
「ほーん」
「ほおおん」
な、なんだなんだ!そのニマニマ顔は!
既にお弁当を食べ終えたらしいユキちゃんとしょこたんの意味深な視線から逃げるように自分のお弁当箱へと意識を集中させるけど、気付けば残りもあとわずか。
チーチクとたこさんウインナーしか残っていない。
……よし、たこさんをラストに回して先にチーチクを食べよう。
そう決めて箸を動かそうとすれば、向かいに座るしょこたんが自分の学生カバンをガサゴソと漁り始めた。
「あれー?」
「どうしたの?なんかない?」
カバンを探る手元に視線をやりつつ問いかければ、眉を八の字にさげたしょこたんが「食後の甘いもの持ってくるの忘れた」と一言。
「ぎゃ!そういやあたしも今日なんもない!」
「ユキちゃんも?そんならなまえが食べ終わったらみんなで購買行こかー」
「せやね!そうしよ!」
「あ、じゃあ急いで残り食べちゃうね!」
先ほど伸ばしかけていたお箸を再び動かす。
その間にも二人がコアラのマーチが食べたいやらミルキーが食べたいやら会議している声が耳へと届いてきて。
うん、コアラのマーチいいね!いちご味だと尚良い!
それにミルキーもナイスチョイス!って………、ん?
……ミルキー?
「あ」
「ん?どうしたん?」
「そういえばわたしミルキー持ってる!」
「おおっ、ほんま?」
「うん、ほら!」
カバンのポケットから取り出して手のひらを差し出せば、ぱあっと目を輝かせるユキちゃん。
「ほんまや!なまえがミルキー持っとるとか珍しいやん!」
「たしかにあんま飴ちゃん買うん見ないよなあ」
「いや、うん、まあ」
なんとなく、本当になんとなく言葉を濁した。
だってここで財前くんに貰ったとか言ったらまたそういう話になりそうだし…!
なんて思って二人を見やれば、どうやら全てはお見通しらしい。
本日何度目かのニヤリ顔を頂いてしまった。
「ははーん、財前くんか?財前くんにもろたんか?」
「財前くんからミルキーもらうとかやっぱり仲良しやーん」
「ち、違…!それは報酬っていうか賄賂っていうか…!」
「いやあ、でもそれは貰われへんわ!財前くんがなまえにあげたミルキーやもん!」
「だからそんなんじゃなくって…!!」
「ちょ、なまえ顔真っ赤やん!」
「んもう、真っ赤になってもうてかわええ〜」
「ちょ、ほんとやめ、って、あ…!!!」
茶化されていくうちにだんだん頬へと熱が集中していくのがわかって、なんとか二人を止めようと手をふり動かした結果、そのはずみで掴んでいたタコさんウインナーが箸からひょいっと離れていった。
そしてその着地地点がまさかの……、
「おいコラ」
「あ、財前くんや」
「ほんまや。席どくからちょお待ってなー」
「おん、どうも……、で、みょうじは何しとんねん」
「ひ、ひいい!ごめんなさいごめんなさい!」
「ええから早くそのタコさんウインナー引き取れや」
「はい!も、ももももちろんですとも!」
く、くそう!なんていうタイミングで帰ってくるんだ財前くんめ…!
「口に出とるで」
「え、うそ…!」
「ウソ。やけど今の反応からしてなんや碌でもないこと考えとったんやろ」
「なっ…!」
嵌められた!華麗に嵌められたよ…!
その巧妙な手口に驚いて目を見開けば、友人ふたりはわたしと財前くんのそんな掛け合いを見ながら先ほどと同様のにやり顔を浮かべていて。
更には、目の前に立つ財前くんまで同じような怪しい笑顔を携えていたものだから驚いた。
え、なに。怖い、怖いよ財前くん!
(言うたやんな、机汚したら罰金やでーって)
(は、はい)
(まあ、あれや。金はいらんから次から授業中プリント回って来よったらそれ受け取るん全部みょうじの仕事ってことで)
(うわ!なにそれめんどくさ、)
(決まりや、決まり。ほな頼んだで、みょうじ)
(ええええ…。)
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前から回ってくるプリントを受け取るのって結構面倒ですよね;
出来ることならば隣の人にまるっと任せてしまいたい!という気持ちを勝手ながら財前くんに代弁させてしまいました。す、すみません…!
そして前話でもらった飴の正体はミルキーでした^^
個人的にノーマル味が一番好きです!