「財前くん、お昼休みの間だけ席借りてもいい?」
あと20分。この授業が終わればやっと昼休みや。
黒板の上にある時計を見ながらそんなことを考えていると、隣の席の女子が不意に一言投げかけてきた。
まあ普段から昼はクラスの奴らと食うか部活の人らと食うかでここに居座ることはないため、こくりと首を縦に振る。
すると、ぱあっと嬉しそうな笑顔を浮かべたそいつに「ありがとう!」なんて礼を言われた。
「せやけど食べカス落としたら罰金やで」
「うっ。そ、それはわたしの友達に言ってよ」
「連帯責任でお前からも徴収したるわ」
そう宣言してみれば、「ええ、それは困る」だのなんだの言って一人で百面相を始めたそいつ。
一年の時から今まで、隣になる女子とは大抵会話という会話をしてこなかった(このクラスになってからはまだ二度目の席替えやけど)はずが、こいつ相手だと面白いくらいにくるくると舌が回る。
まあその理由は明白で、こいつが変に女女してへんからや。
席替えをしてから初の授業時間、ウザい程に腕がぶつかる事に苛立ちを覚えてつい強めにそいつに文句をぶつけてしまった。
今思えばそこまで怒ることとちゃうけど、生憎低血圧の人間は朝に弱いねん。ちょっとしたことでイラっときてまうねん。しゃあないねん。
とまあ、そんなこんなで理不尽な怒りをぶつけた結果、この女は怯むどころか威勢良く口論に応じ、更にはちっとも怖くないメンチまできってきよった。
普通やったら即座に謝ってくるか、はたまた最悪の場合涙まで浮かべるだろう。
正直女子のそういうとこが面倒でしゃあなかったんやけど、なんやこいつ普通の女子とちゃうから喋りやすい。
なんちゅうか、こう…、男友達とおるような、
「ね、ねえ」
「……え、なん?」
「いや、さっきからこっちガン見してるから何事かと思って…。」
ああ、そういやこいつの顔ガン見したまんま考え込んどった。
言われてようやくそのことに気が付き、何気なくパッと目を逸らす。
すると隣から「結局なんだったの?」なんて不思議そうな声が聞こえてきたものだから、適当に「変な顔やなーて思っとった」と誤魔化すように呟いてみた。
そしたら案の定、今の発言を咎めるような潜めた声が隣から聞こえてくるではないか。
…ほんま威勢ええなこいつ。
「失礼すぎるよ財前くんってば…!」
「事実や事実」
「うっわ、失礼の極み!」
「………あ、そういえば」
ムキになってるとこ悪いんやけど、今からもっと失礼な発言さしてもらってもええかな。
(なあ、自分名前なんていうん?)
(ちょ、え、なに、わたしの名前知らないの?)
(知らんから聞いとんのやろ)
(………ほんっっっ、とうに失礼な人だね財前くんって)
(…で?ええからはよ言えや)
(……みょうじ、なまえ)
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財前くんってクラスメイト(女子)の名前とか全然覚えてなさそうですよね!