「ほな、新しい席に移動してー」
担任の先生が普段より少し大きめに声を張り上げるけれど、それは生徒たちによって簡単にかき消されてしまう。
それもそのはずで、このクラスでは訳あって春学期と秋学期の開始日にそれぞれ学期を通しての座席を決めるという通算年二回席替え制度を取っており、今がその席決め(秋の部)の真っ最中だからである。
そしてそんなビッグイベントの中、驚くことに今回わたしはクラス一のモテ男、いや、学年一のモテ男こと「財前光くん」のお隣を獲得してしまった。
きっとクラスの女子の大半以上が狙っていたであろう財前くんのお隣を引き当ててしまうだなんて、一体どうしちゃったんだわたしのクジ運…!
なんてプチパニックに陥っていたのだけれど、つい今しがた机を移動させてきた財前くんと視線が交わったので、ここはとりあえず挨拶の一つでもしておこうと思う。
「よ、よろしく財前くん」
「…おん、よろしく」
とは言っても財前くんとは同じクラスにも関わらず一度も会話を交わしたことがなくって、実質今の事務的な挨拶が彼との初おしゃべりだったりする。
今まで遠巻きに見て「ああ、確かにかっこいいなあ」くらいにしか思ってなかったけど、なんだろう。やっぱり近くでみるとイケメンの威力ってすごい。
そして、四天宝寺は隣と席同士をくっつける型のシステムなので、これまた距離が近くてその威力も一層である。
「(これから半年間こんなイケメン君を隣で拝めるなんて、わたしったらなかなかラッキーかもしれない…!)」
そうアホみたいに浮かれていた数十分前までのわたしに、激しく喝を落としてやりたくてたまらない。
現国の授業中、隣に座る財前くんと一色触発の睨み合いを繰り広げながらそんなことを思った。
「ほんま邪魔やねんけど」
「しょ、しょうがないじゃん。わたし右利きなんだもん」
「そんなん知らんし。今からでも左利きにシフトチェンジすればええやろ」
「その言葉そのまま返す!財前くんが右利きにシフトチェンジしたらいいじゃん」
じとっと財前くんを見据えながら言うも、何百倍も鋭い眼光で睨み返される。
べ、別に怖くないし!わたしは悪くないんだから引き下がらないよ…!と意固地になってみるけれど、このバトルのきっかけはとても些細なもので。
板書を初めて数分。
財前くんとわたしの利き手が反対同士であるが故に互いの肘がゴツンゴツンぶつかり合い、暫くしてこんな理不尽極まりないイチャモンをつけられたのである。
そんなこんなで今の状況へと至っている中、財前くんが引き続き機嫌の悪そうな表情を浮かべながら「あー、なんやお前めんどいな」なんて独り言のように呟いたのが耳に届いてしまった。
おいおいおい、バッチリ聞こえてるんですけどお兄さん!
「ちょ、なにそのわたしが全面的に悪いような言い方…!」
「実際問題、全面的に悪いやろ」
「いやいやいや、」
「いやいや、とちゃうねん。確実にお前が右利きなんが悪い」
「そんな理不尽な。……あ、それなら前回隣だった子とはどうしてたの?」
まさかこんな風に俺様気質をフル活用して相手の子の利き手をチェンジさせたとでも言うのか。
少しの興味でそんなことを問いかけてみる。
……いや、でも、まさか。
そんなことあるはずが、
「前のやつは元から左利きやってん」
「………ああ、なるほど」
そういう異例のパターンでしたか。
(まあでもわたしは右利き貫くんでそこんとこよろしく)
(……)
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クラスメイト財前くんです。
本当は春から書きたかったんですけど、「いやでも今もう秋だしなあ」と思い立って秋スタートにしちゃいました。
短めでちょこちょこ書いていけたら、と思っております(^ ^)