「おーい、みょうじ!財前!」
机に突っ伏してウトウトしながら朝のホームルームが始まるのを待っていると、教室に入ってきた先生からいきなり呼び出しをくらってしまった。
それと同時にクラス中の視線が集まる。
ちょ、なんか気まずい空気なんですけど…!
「わたし達なんかしたっけ?」
隣に視線を移して小さく問いかけれてみれば、そこでようやくスマホから顔を上げた財前くんが「知らんわ」と興味なさ気に一言。
薄々気付いてきたけど、財前くんてば朝は一層に機嫌が悪いらしい。
普段以上に目つきの鋭い横顔を眺めていると、いつまで経っても応答しないわたし達に痺れを切らしたらしい先生が「シカトはあかんで、シカトはー」なんて言いながらもこちらまで歩いてきてくれた。うおお、ごめんね先生…!
「ほれ、お前ら職員室まで取りに来んかったやろ」
そう言って先生が差し出してくれたのは、…日誌?
「って、え?今日の日直わたし達なんですか?」
「せやで。なんや、知らんかったん?」
「は、はい」
吃りながら返事をすれば「まあそれやったらしゃあないわな!」と明るく笑い、何一つ咎めるわけでなくゆったり教卓側へと戻っていく先生。
相変わらずの寛大さだなあ、なんて先生の後ろ姿をぼけっと見つめていると不意に手の中にあった日誌がスルリと抜き取られる感覚。
あれ?と咄嗟に隣を向けば、財前くんが日誌をパラパラと眺めながら「日直めんど」なんて低く唸った。
まあたしかに面倒くさいよね、日直。
* * *
「ほな、ここまで。板書終わったら各自休み時間入ってええでー」
そう言って教室を出て行く先生を見送ると、次第にザワザワと騒がしくなる教室内。
どうやらみんな既に板書を終えているようで、ノートに向かい合っている人の姿は見られない。
「(よし、これなら大丈夫かな)」
椅子から腰を上げ、いそいそと教室の前へと向かう。
すると飴を頬張ったユキちゃんが後ろから飛びついてきて「手伝おかー?」となんとも嬉しい申し出をしてくれた。おおう、持つべきものは友達だね…!
「あはは、ありがとユキちゃん」
黒板消し片手にお礼を言えば、にぱっと笑顔を浮かべたユキちゃんが「おん!」と元気よく返してくれた。
ユキちゃんてば可愛いな、まじで。
「ほんならあたし右から消してくからなまえ左からなー」
「おっけー!」
「………」
「………」
「……なあ、なまえー?」
「んー?」
「ここんとこ届かへんのやけど…て、なまえも上んとこ丸残りやん!」
「や、うん、届かないよねこれ」
へらりと苦い笑みを浮かべて言えば、隣に立つユキちゃんも困った表情になる。
他校の黒板事情を知らないから断言出来ないけど、四天の黒板って少し大きめじゃないかなと思うんだよね。特に縦に大きい気がする。
こんなん届かないよ!高いよ…!
「しょこたん居ったら背高いから消してくれんのになあ…。」
そう呟くユキちゃんの視線の先には机に伏せて夢の世界へと飛び立っているしょこたんのお姿。
そうだよね、しょこたん社会の授業嫌いだもんね。
「よし!椅子持ってこよっか!」
「……俺がやるわ」
「あ、財前くんやん!」
同じく夢の世界へと旅立っていた財前くんがどうやら帰還したらしい。
だいぶ眠そうにしながらも、おおきにと小さくお礼を言ってユキちゃんから黒板消しを受け取っている。
その姿を隣で何気なく眺めていれば、次の瞬間ふと財前くん本人と視線が交わったものだから小さく肩が跳ねてしまった。
や、だって急にこっち振り向くと思わないし!ちょっと機嫌悪そうだし!何故!
「みょうじ」
「な、なに?」
「起こしーや」
「……え?」
あまりに予想外なその一言に思わず気の抜けた声が溢れる。
いや別に拗ねてるような表情可愛いとか思ってないし…!寝起きの声かっこいいとか思ってないし…!
……くそう、イケメンパワーってば凄まじいな。
「起きて前見たら女子ふたり黒板の前でぴょこぴょこしとってなんや罪悪感湧いたっちゅーねん」
「ぴょこぴょこって…!」
「飛び跳ねてたやん、上の方消そうとして」
そう言って上の方に書かれている文字を見上げる財前くん。
その時わたしは彼の整った横顔を見ながらふとあることを思った。思ってしまった。
え、財前くんこれ届くのかな?と。
「…オイコラ、お前なんや失礼なこと考えとるやろ」
「い、いやいや!滅相もない!」
「………」
このあと難なく上部の文字を消した財前くんに思わず「おおっ!(まさか届くとは!)」と拍手を送ってみたら、それはもう忌々しそうに頭をひっ叩かれてしまった。
副音声の部分が伝わってしまったんだろうか。
(財前くんのシバき痛い)
(自業自得やわ)
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日直編パート1です^^
財前くんが身長を気にしていたりしたら可愛いなあ、と。
個人的に、将来176位になってたら鼻血モノです…!!!