午前8時20分。
普段から通学でお世話になっている市営バスが、わたしの目の前を爽快と走り過ぎて行った。
わたしの記憶が正しければ、あのバスが本来この停留所に到着すべき時刻は8:23で間違いがないはず。
ということはつまり。
まさかのまさかで3分早くフライング運行して行ったバスに乗り遅れてしまったらしい。
うおお、まじか…!
「せっかちな運転手さんめ…!」
「ぶふっ!ドンマイじゃん、なまえ!」
「え、」
突然耳に飛び込んできた第三者の声にぐるんと背後を振り返ってみると、そこには今や見慣れた幼なじみの姿。
「ちょ、見てたなら声かけてよ!」
「だから今かけただろ、ドンマイって!」
「……なんで半笑いなの」
「いや、だって…、乗り逃した時のなまえの顔やばかったし!ぶふっ!」
朝日をバックに満点の笑顔でそう言うもじゃ1号こと赤也に、じとっと恨めしげな視線を送っておく。
ちなみにもじゃ2号はわたしの弟のことで、二人を背後から見るとまるで双子かってくらいにとてもそっくりなのである。
「まあまあ、そんな睨むなよ!」
「だって赤也がバカにするから…、っていうかだいたいわたしは間に合ってたんだよ!バスが早めに出発しやがっただけで!」
「わ、わかった!わかったから怒るなよ!」
わたしの剣幕にビビった赤也が小さく肩を跳ねさせてドウドウと宥めてくる。
そしてそのまま背後の荷台を指したかと思うと、「乗ってってもいいけど」だなんてなんとも素晴らしい申し出をしてくれた。
え、まじで?それはだいぶ激アツだよ、赤也!
「やばい赤也最高すぎる」
「へへっ、だろー?」
「あ、でもそういえばテニス部の朝練はどうしたわけ?」
「っ、!」
先ほどから疑問に思っていたそれを何気なく問いかけてみれば、瞬時に暗い表情を浮かべて低く唸り始めた赤也。
赤也と同じく男子テニス部に所属しているもじゃ2号ことわたしの弟が、朝練のためとっくに家を出て行ったことから練習があることはまあ確実だというわけで。
つまりは、
「……もしかしてまた寝坊?」
「いや、あの、その、そうっちゃそう…みたいな?」
「みたいな?じゃないよ。あーあ、凝りもせずまた真田君に怒られるんだね」
「可哀想に」と付け足してニヤリと微笑む。
すると、泣きそうな顔をした赤也にじっと見つめられてしまった。
な、なんだなんだその顔は…!まるでわたしが悪いことをしてるような気持ちになってきて、思わずぐっと言い淀む。
そしてそれと同時に、何か嫌な予感を感じ取ってしまったわたしはじりっと地味に後ずさった。
「あっ!」
「な、なに?」
「なあなまえ、学校着いたら副部長のとこ一緒に来てよ!頼む!」
「な、っんでわたしが…!」
「だって一人で説教くらうのって嫌じゃね?まだ二人の方が気が楽じゃん!」
「…いやいやいや」
なんだその理由…!
つまりはあの真田君の説教にわたしを巻き込もうとしていると!そういうことでいいんですよね?
いやはや、なんっっっって恐ろしいことを考えやがるんだろうこのワカメ…!
悪いけどそんなのは考える間もなく断固拒否だよ。
わたしだって自分の命は惜しい。
「ごめん、無理、却下」
「えええ!幼なじみのよ、よ…よみしだろ!」
「よしみ、ね」
「あ、それそれ!」
よしみよしみ!と得意気にくり返す赤也を視界に入れつつも、そういえばわたし遅刻街道まっしぐらなんだったなあということを思い出し、急いでチャリの荷台へと跨る。
すると、ちらりとこちらを振り向いた赤也が何かを考えるそぶりを見せ、数秒後に嬉しそうな表情を携えながらも意気揚々と口を開いた。
「へへっ、俺いいこと思いついた!」
「はいはい、聞いてあげるから早急に出発しよー」
「まあ待てって!なまえが一緒に副部長のとこ来るなら乗せてってやるけど、来てくんないならやっぱり乗せてやんね!いわゆる交換じょーけんってやつ!」
「なっ…!」
「なかなかいい考えっしょー!」
得意気兼、イタズラっ子のような笑顔を浮かべながら、さあどうする?なんて脅しをかけてくる赤也に目が点になる。
え、一個下の幼なじみに脅されるとかわたし超かっこわるくね?
威厳も何もなくね?
そんな風に思うけれど、やっぱり遅刻は困るってわけで。
気付けば首を縦に振ってしまっているプライドの欠片もないわたしがそこにいた。
「うわ、まじで?うっしゃあ!」
「く、くそう…!」
赤也の思惑通りになってしまったと思うとかなり悔しい。
そしてそんなわたしの心境とは真逆に、途端に目を輝かせにかーっと笑顔を浮かべる赤也。
…うん、もう真田君の説教の件に関しては仕方ない。諦めよう。
今はとりあえずチャリを走らせてもらわなければ朝のホームルームに間に合わないというもので、目の前の背中を小突いて発車命令を出すことにする。
「じゃあ契約成立ってことで本気ダッシュね、赤也!」
「よっしゃあ、任せろ!」
そんなやりとりを交わした次の瞬間。
物凄いスピードで走り出したチャリにさすが運動部だなあなんて呑気なことを考えていたこの時のわたしは、後に待ち受けている真田君の説教があんなにも長く、辛辣なものになるとは予想だにしていなかったのである。
(うぅ、やっぱり遅刻の方がよかったかも…)
(なに?!たるんどるぞみょうじ!!)
(ひぃ!!ご、ごめんなさい!!)
(お前もだ赤也!朝練を寝坊で欠席するなどけしからん!!)
(す、す、すみませんっしたー!!!)
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はい、第一話は赤也とヒロイン関係について書かせて頂きました(^^)/
赤也とは家が近い幼なじみです!
ヒロイン中3、赤也中2ですが、幼なじみなので敬語はなしでばんばんタメ語で話しちゃいます(*^^*)
ちなみに弟は赤也とタメで部活も一緒という仲良し設定です!!