みかんの皮。 | ナノ


ブーブーブー


「なまえ、電話着てるよ」

「え?あ、ほんとだ」


部活にも委員会にも所属していないわたしとその親友はなたんは、二人仲良く放課後の教室で季節限定トッポ(スイートポテト味)を食していた。
そして、そんな中に急遽飛び込んできたのがこの着信である。
未だにブーブーとバイブ音がうるさい。


「なに、出ないわけ?」

「んー、どうしよう」


ディスプレイに表示されている名前を睨みつけながらそう言うと、誰よ?とはなたんが画面を覗きこむ。


「…ああ、なるほど。また何か押し付けられそうな感じがするね」

「だよね、わたしもそんな気がする!ああ、二年の時このお方と同じクラスになっちゃったのが運の尽きだった」

「あとあれね。あんたの弟君がテニス部入ってレギュラー陣と仲良くなっちゃったのも運の尽きだったよね」

「それねー、もう本当偶然に偶然が重なった結果だよ」


トッポを食べる手は止めずに、遠い目で窓の向こうを見つめてみる。
ああ、こうして話してる間にも鳴り止んでくれればいいのに。わたしのスマホめ。

……てかしつこいな。そろそろ諦めて終話ボタン押してくれよ。


「全然切れないね」

「うん。怖いよはなたん、どうしよう」

「出ちゃえば?」

「えええ…」

「多分これ出るまでかかってくるよ。だからほら、えいっ」

「あ、あああっ!!!」


は、はなたんんんん…!?何勝手に応答の
ところタッチしてくれちゃってんの!ちょ、もう通話始まってんじゃん!や、やばいでしょこれは…!

惜しくも繋がってしまった電話の向こう側からは、なにやらギャアギャア騒音がうるさいが、そんなことも気にならない位わたしの気は動転している。
なぜならわたしは先程まで、この絶対的権力保持者からの着信を総無視していたのだから。

でもしかし、応答してしまったものは仕方がない。
緊張しすぎて冷え切った指先を駆使して、スマホを持ち上げ恐る恐る耳に当てた。


「は、はい。もしもし、」

【なまえ、お前今どこにいるの】

「きょ、教室にいる!はなたんとトッポ食べてた!」

【そう、じゃあとりあえずトッポはそこにおいて至急テニスコートまで来てくれるかい?】

「え?はい?」

【3分以内にテニスコート集合。間に合わなかったらお前の事正規マネージャーで申請するから】


急いでね、と聞こえたと思ったら次の瞬間にはブチリと一方的に終話された。
うわ、やっぱりすぐ電話出なかったの怒ってるよ幸村君。ちょーこわい。
行きたくない。でも行かなきゃ正規マネージャーとか恐ろしいこと言ってたよ。
ああ、こんなことならワンコール目で出とくんだった…!


「は、はなたん…。」

「幸村なんだって?」

「3分以内にテニスコート来いって。トッポは置いて来いって」

「あらら。じゃあわたしももう帰るからあんたは行っておいで」

「えっ!せめて一緒に来てよ!」

「やーだ!とりあえず早く行かなきゃ3分経っちゃうんじゃない?」


はなたんのその一言にサアっと血の気が引くのを感じて、急いで鞄をひっ掴むと本能のままに走った。
それはもう無我夢中で、テニスコートまでリアルに2分弱で来れたんじゃないかと思う。人間何事もやればできるんだって実感できたわ、まじで。


「ハァハァ、ゴホッ!き、来たよ幸村くん!!」

「うん、まあ少しタイムオーバーしてるけど許してあげるよ」

「ッハァ、んで?、今回わたしを呼んだのは何のご用で?」


乱れた呼吸を整えながらも問いかけてみると、幸村君は流れるように綺麗な動作でスッとテニスコートを指差す。
なのでわたしは素直にその指の先へと視線をやった。

そこで気気付く。
遠目に見ると双子なんじゃないかと思う程似ている、癖のあるもじゃ毛頭×2の存在に。


「あ、あいつら…!」

「何が理由かはわからないんだけどね、見ての通り赤也と慎が喧嘩し出したんだよ。まあ俺達で止められないこともないんだけど、あの二人結構パワフルだから。下手にこっちで労力使うよりなまえ呼んだ方が効率いいかなーって」



……なるほど、そういうことか。
先程幸村君の口から出た"慎"というのは正真正銘わたしの弟であり、その慎がテニスコートで幼馴染である赤也と絶賛喧嘩中。

つまりわたしがあいつらを収集しろと。
そう言いたいんだよね…?
ひくりと頬を引きつらせながらも幸村君に視線で問いかければ、こくりと肯定の頷きを頂いてしまった。


「頼んだよ、なまえ」

「切実に頼まれたくないけどね」

「…ん?」

「なんでもないですいってきます!」


こ、こえー!幸村君の目が笑ってない微笑みちょーこわい。
もう何も逆らえない。逆らわない…!
ぶわっと吹き出した手汗をぱたぱた乾かしながら、赤也と慎のいるテニスコートへ俊足で駆け寄り、とりあえず一人一発ずつ渾身の一撃をお見舞いしておいた。
わたしの放課後をめちゃくちゃにした罰だ、この馬鹿たれ共め!



(いっ、てぇ!!って…え、なまえ?!)

(なっ、なにしてんだよ姉ちゃん!)

(なにしてんだはこっちの台詞だわ!お前らのせいでどんだけわたしの精神が削られたと思ってんの!)

(だって!慎が、)

(ちげーよ!赤也が、)

(うるさいうるさい!どーせどっちのボールが速かったかとかそんなんで揉めてたんでしょ!あんたらが部活中喧嘩すると何故かわたしに飛び火すんだからまじでやめて、わかった?)

(……姉ちゃん怖い)

(……俺笑ってるなまえのが好き)

(そんなんいいから返事は)

((……わかりました、ごめんなさい))

(うん、わかればよし!)


・  ・  ・


(あれ?もうあいつら収めたの?さすがなまえだね、すごいすごい!)

(こんなこと褒められてもちっとも嬉しくないんだぜ幸村君…!)

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なんだか毎回毎回終わらせ方が下手くそで申し訳ないです…(T_T)!!
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