「ねえ涼太くん」
「んー?どしたの名前っち」


みんなと、帝光中のみんなとはもう、そう何度聞こうとしたか。
彼らにしか分からないことがあるのかと思うと聞けずに、



「明日も晴れるといいね」
「そうっスね」



また誤魔化して今日が終わる。
ずっとずっと見てきたの。
涼太くんの、


彼らの、




背中












「今日も笠松先輩にちょー怒られたんスよ!何で俺にだけあんな怒るんスかね」


そう愚痴るのは元帝光中、キセキの世代の一人、黄瀬涼太。
同じキセキの世代の青峰大輝に憧れ、バスケ部に入部した。
バスケをしている彼はすごくキラキラしていて(そうでなくてもモデルをしているせいか常に輝かしいが)、女のわたしでさえ見惚れてしまうくらい。
そんな彼とわたしは今、海常高校に通っている。



「馴れ馴れしいんじゃない?」
「え!ひどくないっスかそれ!」


名前っちも笠松先輩も冷たい!と騒ぎながら隣を歩く。
こんな光景は日常茶飯事だ。
毎日部活終わりには、笠松先輩に怒られたー、だの殴られたー、だの愚痴を言ってくる。
直そうとしてる?と思いつつも、彼の反応がおもしろいのでついついからかいたくなる。


今は、慣れた。
やっと、と言うべきか。


わたしは帝光中バスケ部がだいすきだった。
キセキの世代5人と幻の6人目、黒子くん。
その6人を見るのがすごくすごく、だいすきだった。
ずっと続けばいいな、と思っていた。
“どうしてみんなバラバラになったの?”
“もういっしょにバスケするのは無理なの?”
“みんなずっといっしょだよね?”



「ねえ、涼太くん」
「ん?」
「わたしね、ずっと言いたくて言えなかったこと、あるの」

わたしの表情を見てきっと涼太くんは分かったんだと思う。
そっと近づいて、わたしの背と同じくらいの高さまでしゃがんでくれた。


「なあにしたんスか?そんなしんみり顔しちゃって。名前っちらしくないっスよ」

そう言う彼の表情も、どことなく寂しげだ。

「もう、みんなと、帝光中のみんなとバスケするのは、無理なの?あの頃のみんなが、」

だいすきだったから、と言おうとしたら、涼太くんに抱きしめられて続きを言えなかった。

「応援してる名前っち、あの頃の方がキラキラしてた、っスね。ずっと気づいてた。でも俺、」

そう言って離れ、わたしの肩を掴む。

「海常の黄瀬涼太」

ドキッとした。
それが今の彼の居場所。

「けっこう気に入ってんス」

微笑む彼は、あの頃の、いや、それ以上にキラキラしていた。

「俺さ、先輩たちとみんなで勝ちたい、そう思ってて。そりゃあ入部したての頃は『俺はキセキの世代だ』なんて言って威張ってた時もあったけど、それはそれっス。今は、」



ばかだなあ、わたし。



「ちょ!名前っち?!」



涼太くんに申し訳ないことばっか考えてた。
昔の姿ばっか追いかけて、今の涼太くんを見ていなかった。



「...泣かないで」



こんなにキラキラしてるじゃんか。



「ごめんね、ほんとにごめん」
「何で泣いてんスか」



“帝光”と書かれたユニフォームを、その背中を見るのがだいすきだった。
みんなで闘ってる姿を見るのがだいすきだった。
赤司くん、青峰くん、紫原くん。その3人が変わってしまったこと、みんながバラバラの高校に行ってしまったことがあまりにも悲しくて受け入れられないでいた。

でも、




「海常の黄瀬涼太くん」
「!.........はい」
「だいすきです」



名前っち、それはナシっしょ、と、顔を赤らめ微笑む。


簡単なことだったのかもしれない。
わたしは涼太くんがすき。
海常を背負った背中がすき。
わたしの名前を呼んでくれるその声が、微笑んでくれる優しい目がだいすき。







「ねえ涼太くん」
「今度は何スか、反則なしっスよ」
「反則?よく分からないけど...せっかくだしアイス半分こして帰ろ?」
「だーかーら!それ!」

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