それは突然始まった。

万華鏡のように一瞬にして世界が変わるような、
わたしにとって大事な大事な青春の始まり。















「名前ー!!遅刻するわよー早くご飯食べなさい!」

わかってる。
わかってるよ!

「うまく髪がまとまらないの!」
「学校と髪型どっちが大事なの」
「髪型!」

もー。勝手になさい、と母の諦めた声が聞こえた。


だって今日は入学式。
今日の第一印象で三年間が決まると言っても過言ではない。

それにしてもまとまらない髪。
時間もないし、教室に入る前にトイレでなんとかしよう。


「行ってきます!」
わたしはダッシュで学校へ向かった。
桜が舞う道を、たくさんの期待を込めて走る。
たくさん友達出来るかな。
恋も、したいな。
わたしのこと、好きになってくれるひと、いるのかな。


「あの!!」



「えっと、ダッシュしてる女の子!」

わたしかな?と振り向くと、その人もダッシュで来てくれた。


「はあ、はあ。初日からダッシュなんて、すごいですね!」
「あのー、どうしました?」
「あ!すみません!これ落としたのあなたかな、と思って、」

差し出されたキーホルダー。
学校が別になってしまった親友からもらったものだった。

「大事なものなの!ありがとう」
「そうかなって思って呼び止めたんだ、よかったです」

その人は笑顔が眩しい、爽やか少年という感じ。
この人も今日からの新生活に期待してるんだろうな。

「髪、」
彼は突然呟いた。
「髪?」
聞き返す。
「綺麗だね、って俺!何言ってんだ」
こんなくるくるの髪。
まとめるのが大変なだけだと思っていた髪。
それを彼は、綺麗だと言ってくれたのだ。
「綺麗、じゃないよ、毎日ケアが大変なんだから」
「ごめんなさい!なんか俺、初日からキモい!でも、本当に綺麗です。って遅刻しますよ!」

褒めたり慌てたり忙しい人。

「何それ、へんなの」

思わず笑ってしまった。

「!」

なんだか彼の顔がみるみる赤くなっていく。

「顔、赤いですよ。あまりダッシュしない方が...」

「こ、これは違うんだ!なんていうか、すぐこうなるというか...」

ほんと忙しい人だ。

「でも、褒めてくれてありがとう」

そう言うと彼はにっこりと笑った。
その笑顔はまるで万華鏡のような、たくさんの色をくれるような、素敵な笑顔だった。


わたしも一緒に走る。

「ねえ、あなたも一年生?」
「そうだよ、俺は羽柴 夏樹!君は?」
「わたしは名字名前、よろしくね」
「こちらこそ!」




わたしの横を、春の風が吹き抜けた。

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