クラスメイトの紫原くんはお菓子が大好き。
見れば必ずと言っていいほど片手にお菓子の袋を持ち、モグモグと口を動かしている。

「アツシ」

あ。この声は。

「なーにー室ちん」

紫原くんと同じバスケ部の氷室辰也くん。
女性から見ても綺麗だなと思う。
整った顔立ちで、サラサラな髪。目も声も綺麗だ。モテないわけがない。

「何じゃないだろう。部活に行くぞ」
「うん、あ、ちょっと待ってー」
「どうしたんだいアツシ?」

一瞬紫原くんと目が合った気がしたんだけど気のせいかな。だとしたら嬉しいけど接点がまったくないわたしたちにそんな奇跡起こるはずがない。

「んー、なんでもない。行こー室ちん」

いつ見ても絵になるな、この二人。
そう思っていると氷室くんが振り向きわたしを見る。

「君、えっと名前は...」
「名字名前です」
「そうそう名字さん。君、アツシのこと好きだよね」
「!!え、なっ!」

わたしが慌てて“しーっ”という仕草をすると彼はフフと微笑み去っていった。
そんな分かりやすくしているつもりはなかったのに、どうしてバレたんだろう。
わたしはバレたことと氷室くんに声をかけられたことで驚きの余りしばらくの間その場から動けなかった。





















「...だって。アツシ」
「ふーん」
「気付いてなかったのかい?」
「しってるし。ただ室ちんにバレたくなかっただけ」
「ハハ。なんだよそれは」
「べっつにー」
「アツシって独占欲強いよね」
「うるさいし。室ちんでもあんま言うと捻りつぶすよ」
「わかったわかった。怖いよアツシ」













さっきはびっくりしたな。
でも、わたしのこの想いは紫原くんに伝わらなくても平気。
彼がずっとずっとバスケをやってくれるなら。いつも怠いと言いながらやっているようだけど、きっとバスケ大好きだもん。


ハァ、と白い息が目の前に広がる。
季節は冬。
秋田の冬はすごく寒くてかじかむとかそういうレベルではない。
夕方の景色を見ているだけでも凍えてくる。
もうそろそろ部活終わる頃かな。
こんな気温の中でも彼らはキラキラ汗をかいているんだろう。


わたしはゴソゴソと厚手のコートのポケットを探る。
さっき自販機で買ったホットココアと彼の好きなお菓子をひとつ掴むと、紫原くんの下駄箱へそっと入れた。

彼が彼のままいられますように。
大好きなバスケを続けてくれますように。

積もったばかりの雪の上をわたしは、キュッキュッと音を立てながら歩き始めた。




ないしょのお菓子

(雪のように音のない想いをのせて)



「......名前ちん、」
「アツシ?」
「んー、なんでもない」
「はいはい」
「室ちんのばーか」




2015.11.11


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