「おい」
冬の匂いが漂いはじめた、
ある日の放課後。
「おい、じゃないよ。名前って名前があるよ」
「いいから行くぞ」
「…はいはい」
こんなやりとりは当たり前。
こんなのがわたしたちの普通。
「風、冷たくなってきたね」
「もう11月だからな」
「手がすぐ冷たくなるよ」
「それは俺に手を繋ごうと言ってるのか?」
「いや、別にそういうつもりじゃないけど」
本当にそうだ。
だって、もしそう言ったとしたって恭也くんは『繋がないからな』そう言うに決まってる。
だからわたしは、期待してない。
「素直じゃないな名前は」
そう言って、わたしの名前を呼んで、にっと笑う。
こういうところがすき。
「あれ?わたしは『おい』じゃないのー?」
「風強いな」
「ねえちょっと聞いてる?」
ねえってば、と早足で恭也くんの元へ駆け寄る。
「手袋」
「ん?」
「ほら、」
そう言ってわたしは何かを受け取る。
「名前が寒い寒い言うと思って買っておいた」
安もんだ。と付け足す。
こういうところがすき。
「わたしのこと、考えてくれたんだね」
「そうじゃなきゃ買わない」
「さっそくつけていい?」
「もうおまえのモンだろ、勝手にしろ」
「ありがとう、恭也くん。大切にする」
「当たり前だ」
前を向く恭也くんの髪がなびく。
少し癖のある綺麗な髪。
なんだかその後ろ姿がとても愛おしかった。