あなた見てるとヒヤヒヤして嫌なのよ!
実渕にいつも言われる台詞だ。わたしは別に男っぽいわけでもなく、誰かに嫌われるほどトゲトゲしているわけでもなく至って普通の性格だし、一応洛山のマネージャーなわけで人間観察やすぐ熱くなる彼らの制止役になることが多いのに。

それを言ったら分かるの、分かるけどそうじゃないのよと困り果てた呆れられた顔をされた。彼のこんな顔は見たことないから、相当困っているんだと思う、わたしにはどうすることも出来ないのに。いや、わたしが原因なのだけど。


「玲央姉わたしどうすればいいのかわかんないよ」
「征ちゃんに対してもっと何て言うの?優しくというか、私達が見てて安心できる対応して欲しいのよ」
「は、はあ。優しく、ねえ」


征ちゃんとは、キセキの世代の一人で洛山高校の主将、赤司征十郎のことだ。
わたしと赤司は腐れ縁で小学生からずっと一緒だ。

いつも周りに恐れられ勝利がすべてだと己が一番だと言う赤司にわたしはいつも冷たくあしらう。
もしくはそれが心と身体の成長であり、彼らにとっては当たり前で、ただわたしがついていけなくなった寂しさと辛さを赤司に当たっているだけなのかもしれない。
(けれど昔の赤司はもっと穏やかで柔らかな優しい笑顔をしていた。確か母親が亡くなり父親が教育すべて管理するようになってから、なんとなく様子がおかしいことが増えた。豹変したのは中学の時。それからわたしはいつも泣いていた気がする)

しかしWCが終わってからというもの、赤司は昔の赤司に戻った、ような気がする。
穏やかな微笑みと柔らかな口調。
最近までの棘のような口調や威圧感、恐怖感といったものはまったくと言っていい程感じられなくなった。
きっと黒子くんがいてくれたお陰。
(黒子くんの存在はきっと、キセキの世代の彼らをいつか一纏めにしてくれそうな気がしてならない)




いつからかな。
わたしがこうして赤司に冷たくしてしまうのは。
本来なら支えてあげなければならないのに、わたしはどうして彼を受け入れられないんだろう。


「すまない、遅くなった」
「メニューはひと通り伝えた。みんなほぼ終わってるよ、赤司」


赤司は生徒会の仕事もある為、部活には度々遅れて登場する。


「ああ。名字、いつも支えてもらって感謝している。ありがとう」


彼はそう言うとわたしにふっ、と微笑む。
わたしの好きな赤司の笑顔。
けれどなんとなくチクッと痛むのはどうしてだろう。


「わたしマネージャーだし、それくらいは、するよ」


『そこは素直に“どういたしまして”でいいじゃない』と実渕の声が聞こえたが、わたしは聞こえないフリをした。
素直になれない、というよりは、なりたくない。


「実渕、俺は気にしていない。先にトレーニングを済ませてくる」


そう言うと赤司は体育館を出て行った。


「ちょっと名前〜!もう、胃が痛いわよ」
「ごめん、てば。自分でもどうすればいいかわからないんだもん。赤司についていけてない」
「それって...」
「え?」
「いいえ、何でもないわ」
「?...変な玲央姉」


そしてわたしはみんなにタオルとドリンクを渡す為、一旦体育館を出た。


「あの子ったら...征ちゃんのこと好きなんじゃない」





実渕のその呟きをわたしは知らない。
そしてよくわからないこのもどかしいものの正体を、すぐ知ることとなる。