ああ。
どうしてわたしは。







「ちょっとまって」

そう言ってわたしは足を止める。


「あ?なんだよ」

そう答えるのは、王子と呼ばれる男、佐田恭也。


「今日はいっしょに帰る約束してない」
「俺が帰ろうと言ってるんだ。それが理由だろ」

はあ。
相手に聞こえるくらいの大きな溜息が出た。

「そんなん理由ならないからね?言っとくけど、こうしていっしょに帰ってるのを女子に見られてあとであーだこーだ言われるの、ほんっと嫌なんだよ、だから出来ればあまりこうしていたくな...ちょ!何すんの」

何をするかと思えば、わたしの手首を掴み、ぐんぐん引っ張っていく。
奴はわかってない。




それ以上にわかってないのは、わたしだったのかもしれない。

手を引いて前を歩いているやつの頬が少しだけ、ほんの少しだけ赤くなっているのは気のせいか。

「ねえ。ちょっと、聞いてんの?」
「うるさい。バカ。こっち見ないで歩け」

そんな無茶な。

「ねえ、手を繋いで歩こうよ」

いたずらっぽく言ってみる。

「バカ。恥ずかしいだろ」

それでもなぜこの手を離さないのか。
「ねえ、やっぱいっしょに帰る」

「…おう」

ふっ、と笑う奴の顔を見て愛しいと思うわたしは、もう病気なのかもしれない。

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