どうしてこうなったの。
今確かなのはわたしときーくんが、黄瀬涼太が別れたという現実と、彼に好きな子がいる、っていう現実と、それ以外は何も変わらずにまた明日はやってくるという現実。
きーくんの後ろ姿がまだ視界にあって、わたしはただただそれをここから見ることしかできない。
本当に終わったのかな、
ああだめだ。涙が止まらない。
わたしは大好きだったし今でも大好きだし、これからも変わらない自信がある。けれど彼は、どっちかだけがそう想っていてもうまくいかないんだ、って、いつかは終わっちゃうんだって、
“ずっとずっと大好きっス!”
あれは何だったのかな、
わたしははじめから遊びだったの?
“俺、運命とかあると思うんス!だって先輩に出逢えたんスからね!”
でもきーくんはそういう人じゃない、遊びで付き合うとかぜったいしない真面目な人。
“ちゃんと向き合ってちゃんと話せばきっと大丈夫、ね?名前っち!”
ぜったい大丈夫なんだよね?わたしたち。
「きーくん!!お願いがあるの!」
彼は振り向くかどうか迷うように、ゆっくりとこっちへ回ってみせた。
「...なんスか」
冷たい目線に言葉が詰まる。
昨日まではなかよしだったのに。わたしが気づかなかっただけ?
「ど、どうしてお別れなの?わたしが嫌いになった?年上が嫌になった?悪いところあったら直すから、だから、」
黄色い瞳が揺れる。
「そう、先輩年上だから合わないなって、同じクラスの子の方が話合って楽しいって思った」
「わたしきーくんの好きなテレビ知ってるよ?雑誌だって服だって知ってる、」
また揺れる。
動揺しているかのようだった。
「だーかーら!!もうおしまいなの、先輩と俺は!」
彼は怒っている。
投げやりに、言い訳に言い訳を重ねるように。
きっと何かあったに違いない。
「何かあったなら聞くよ、それ聞いたらもう終わりにする、だからお願い教えて」
「...それ言ったら、」
「え?」
「それ言ったら、俺...先輩に甘えちゃう、っス...」
「こういう時こそ甘えてほしいものなんだよ、きーくん」
彼は話し始めた。
わたしが来年卒業してしまうこと、
大学という新しい場所で自分より素敵な相手に出逢ってしまうのではという不安、
部活、仕事、わたしのこと。
これからどうなるかわからない不安が、別れという道を選んだこと。
わたしのことは今でもこれからも大好きで、好きな子が、なんて言い訳だったこと。
「なあんだ!ふふ。そんなこと?」
「な、なんだってなんスか!俺必死に悩んで、」
「ちゃんと向き合ってちゃんと話せばいい」
「...」
「きーくんがわたしに言ってくれた言葉だよ。ちゃんと話してくれればよかったのに」
「だって、そんなこと男が言う話じゃないっスもん...女々しい」
きーくんは女々しくない。
バスケやってる姿が本当に大好きで、
モデルのカッコつけてる写真だって大好きで(それは仕事だから仕方ないんスって怒られる)、
隣を歩く横顔とか、大きい手とか、綺麗な瞳とか笑った顔とかぜんぶ大好きだもん。
そう言ったらもうやめて!恥ずかしすぎる!と俯いた。
大丈夫。
わたしたちはこれからもやっていける。
きーくん?あなたとだからだよ?
そう言いたかったけどもうやめてって言ったじゃないっスか!って怒られそうだからやめておくね。
「名前っち、おいで」
大好きなその腕に抱かれて、わたしは少しだけ泣いた。
そのあと目が合って、驚いたきーくんを見てわたしが笑ったら、きーくんはとても優しく笑い返してくれた。