ダイヤモンドリリーに込めた約束/赤司征十郎


私と赤司くんが出会ったのは、とある病院でだった


幼い頃、私が病気で入院している病室に、間違えて赤司くんが入ってきたのだ



がらら


「しつれいします。…ん…?」


『え…?あなた、だあれ?』


その時は、私の病室に訪ねてくる人なんて、お医者様や看護師さんくらいしかいなかったものだから、本当に驚いて目を丸くしたっけ…


彼の話を聞くと、彼は、一人で自分のお母様のお見舞いに来たから、間違えて私の病室に入ってしまったらしい


同い年くらいの少年が、一人でお母様のお見舞いに来てることと、彼が凄く大人びていたことに、私は酷く驚きを感じたのを覚えてる


「…きみは、こんなところでひとりでにゅういんしているのかい?」


『…うん』


「おかあさまやおとうさまは?」


『…わたしは、ひとりぼっちだから…』


そう言って目を伏せると、彼は慌てて言った


「な、なきそうなかおをするな。おれがまたきてやる」


『え…ほんとう?』


涙で目を濡らしながらそう問いかけると、彼は笑顔で頷く


「あぁ。約束しよう」


それから、赤司くんはお母様のお母様のついでに、私のお見舞いにも来てくれるようになったのだ


凄く嬉しかったなぁ…


彼のお母様とは同じ病棟だったから、彼に連れられてお母様の病室に行ったこともあったっけ


彼のお母様も病気で入院しているらしい


私も、彼にお母様を紹介してもらってからは、赤司くんのお母様に誘われて、良く彼のお母様の病室に遊びに行かせてもらってた


まあ、彼のお父様がお見舞いに来たときは、流石に遠慮して自分の病室に帰ったけど…


夫婦水入らずの時間を邪魔するわけにはいかなかったし…






そんなある日、赤司くんから勉強を教わっていると、お医者様の先生が病室に来た


「やぁ、みのりちゃん。最近その彼と一緒にいることが多いようだけど、お友達かな?」


『…え、えっと…』


彼との関係を聞かれ、どう答えていいか返答に困っていると、彼が代わりに答えてくれた


「みのりは、おれのこんやくしゃだ」


『えっ…』


「え?」


彼のまさかの発言に、二人して驚き固まる


『えっ…え?』


「ふふ」


満面の笑みを浮かべている彼に、私はなにも言えなかった


それからしばらくして、看護師さんから、彼の母親が亡くなったと聞いた


そのとき、私は悲しくて涙が止まらなかった


お世話になっていただけに、恩返しもなにもできずに喪ってしまったことに、罪悪感を感じていた


彼は、お母様が亡くなって、自分も忙しくなるから、最後にと、私の病室にお見舞いの品を持ってきてくれた




こんこん


『はーい』


「俺だ」


『あ、赤司くん?入って』


「あぁ」


がらりと病室の扉を開いた彼が持っていた箱のなかには、綺麗なダイヤモンドリリーのプリザーブドフラワーが。


『これは…』


「ふふ、凄く綺麗だろう?この花はダイヤモンドリリーと言うんだ。日に当たるとキラキラとまるで宝石のように輝くことからこの名前がついている。この花の花言葉は、"また会う日を楽しみにしています"だ」


『え…』


それって…


どういうこと…?


どういうことかわからず眉をハの字にすると、彼は笑う


「今度会う時は、元気な姿を見せてほしい。母さんの分も、長く生きてほしい。だから…必ず、病気を治してくれ。そして、その時は…」


赤司くんはすがるように私に言うが、途中で視線を下げてしまう


『…赤司くん…?』


「…いや、この言葉は今言うべきじゃないな。また元気になって再会したときに言わせてくれ」


赤司くんはそう言って、少し弱々しそうに笑った









それから、月日は流れ、私は大きな手術をして、病気を治し、学校に行き始めた


もし、赤司くんに会いに行けるなら、会いたいとも思った


…けれど、あんな小さいときの約束、忙しい彼が覚えているはずがない


そう思う自分もいた




そうしているうちに、高校生になった


身寄りのなかった私は、京都の親戚の家に引き取られていたから、学校は必然的に京都の学校に行くことが決まっていた


赤司くんと会ったのは東京だから、遠いし、きっと、もう会えないんだろう、約束、果たせなかったな…と落ち込んだ


でも、その分長生きしようと決めた


そんなある日…


私が学校に行くと、体育館が開いており、なんだ?と思って入り口に向かうと、バスケットボールが転がってきた


『バスケットボール…』


拾って眺める


赤司くんも好きだと言っていたな


そんなことを考えていたとき


「…みのり?」


『え…?』


名前を呼ばれて顔をあげると、赤い髪をした青年が息を切らしながら立っていた


誰だろう…でも、この顔、どこかで見たような…


そう思いながら首を捻ると、彼はポツリと言った


「…やっと、会えた」


『え?』


私が答えるよりも早く、彼は私を抱き締めた


『え!え!?』


男性に免疫なんてなかったものだから、思わず顔を真っ赤にしながら慌てると、彼は呟く


「…やっと会えた、やっと…」


その声は真剣で、演技しているとは思えない


なら彼は私の知り合いなのか?


あの…と再び声をかけると、彼は体を離してくれた


「すまない、思わず体が…」


そう言ってはにかんだ顔に、見覚えがあった


『…まさか、あ、赤司くん…?』


「あぁ、そうだよ」


『え…!』


まさか、彼と再会できるなんて


私が感動に言葉を失くしていると、彼は笑う


「やっと果たせたな、あの日の約束を」


『う、うん…!』


思わず泣き出した私に、彼は跪いて言う


「あの時から、再会したら言おうと思っていた。俺と…結婚を前提に、付き合ってください」


『赤司くん…!…は、はい…!』


思わず涙目で頷くと、彼はまた抱き締めてくれた







ダイヤモンドリリーに込めた約束


(それは、数年越しに果たされることとなる)

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