財前の涙は初めて見たような気がする。今までダブルスを組んできて、たとえば練習試合で負けたときも、県大会で優勝したときも、全国で負けたときも、泣いたことは一回もないはずで。


「謙也さんが好きなんです」


こんな財前は知らなかった。


「謙也さんに答えてもらおうなんて思いません。でも、」
「言わなきゃいけないと思ったんです」
「フラれるのは逆につらいんで…聞くだけってことで。それじゃ、」


涙を拭いもせずに立ち去ろうとする財前の腕を掴む。掴んだ瞬間に振り返った財前の顔を見て、腕に伝わった熱とどうしようもないほどに動き回る鼓動を感じた。


「俺は、財前が思ってるよりも、」
「財前のこと、好きやから」




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