02
月明かりが薄暗い山を照らす。
木々の間を月明かりが照らしているため、走れない事はない。
と、言ってもそれは彼が山に慣れているという事もあるだろう。
生い茂る草木を掻き分けて霜惺は山を駆け抜ける。
「永鬼!」
「この向こうに岩山がある」
隣を並走している自らの式に一瞬だけ目を向けると、霜惺は一気に加速した。
遡ること二日前。
夜になってから邸に客人が訪れた。
その人物はどうやら霜惺に依頼に来たようだ。
話を伺おう、と霜惺が言うと、その人物は最近都を騒がせている妖怪話は知っているかと言った。
それに対して霜惺が「知らない」と答えるとその話について説明し、そして自らの姫もその妖怪に拐われたと言った。
そして、あろうことかその姫が拐われてもう二日は経っているという。
それを聞いて霜惺は怒りにその人物を怒鳴った。
そして今に至る。
依頼を受けてから都中、また妖怪が住みかにしそうな野山を駆け回っているのだが、さすがにそろそろ疲労もたまって来ている。
そして何よりもその姫が気掛かりだ。
「なあ、永鬼」
呼ばれて永鬼は霜惺の方を向く。
霜惺の顔を汗が伝ったのが見えた。
「鬼は人を喰らうのか」
永鬼は前を向いて黙ったまま走り抜ける。
無視をしている訳ではないことを霜惺は分かっている。
だから彼が答えてくれるのを待ちながら走る。
やがて、目を細めて不機嫌そうに永鬼は呟いた。
「さあな」
「ならば、お前は喰いたいと思うか?」
これにはえい鬼は即答した。
「もしそうなら等の昔にお前を食い殺している」
それを聞いて霜惺は苦笑した。
「それもそうか」
やがて、二人の前に大きな岩が見えてきた。
えい鬼が言うにはここら辺だろうということだ。
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