04



他者では気づかない程ではあるが、彼は僅かに目を見開いた。


「私を・・・殺してください・・・」


殺してくれと目の前の女が言う。


しかし、その頬を伝う涙と、震える様を見る限り、自分には彼女が死を望んでいる様には見えない。


喉元に突き付けられた刃に震え、涙を流す女が死を望む理由が分からない。


「・・・何故?」


疑問を問えば彼女は瞳に涙を浮かべながら薄く笑った。


「・・・何故?助けてくださった命の恩人に・・・私は刃を向けました。理由には・・・十分にございましょう?」


そっと彼女の頬を伝う涙を拭う。


「・・・それに、私は外での生き方を知りません。生きていくことなんて・・・」


それを聞いて彼は口端を僅かにつり上げた。


「―――外での生き方?可笑しな事を言う。まるで幽閉されてたかのような言い方だな」


外での生き方。


つまり彼女は世間とは異なった場所で隔離されていたことを伝えたことになる。


掴む手に力を込めると彼は目を細め、さらに畳み掛ける。


「―――お前は何者だ?」


ハッと菘は目を見開く。


「・・・答え、られま・・・せん」


「ほう・・・」


答えられないか。


「申し訳、ありません・・・私は・・・」


彼はスッと目を細める。


表情が無い、とても冷たい目をしていた。


恐怖から目を見開く菘の耳元に和葉は顔を近付けると「ふっ」と笑った。


「お前は何者だ?―――祓い屋の巫女よ」


菘は大きく目を見開いて固まった。


つう、と頬を涙が伝った。


顔を離すと、彼は菘の喉元に突き付けていた短刀を退けた。


「・・・わ、私の事を・・・知っているのですか・・・?」


震える声を無理矢理絞り出す。


「それとも、貴方は・・・全て、知っているの・・・です、か・・・?」




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