03






* * *










「・・・・・・っ」


身体を襲う痛みに顔をしかめながら、彼女は目を覚ました。


月明かりが室内を照らしてはいるが、全体を把握する事は難しい。


「あやかし屋…様……」


「―――呼んだか?」


不意に聞こえた声に彼女―――菘(すずな)は目を見開いた。


「……っ」


菘は慌てて身を起こそうとしたが、声の主は目だけで制した。


「―――そのままで良い。傷にさわる」


「・・・あ、貴方が・・・あやかし屋・・・様?」


「そうだ」


震える声をなんとか絞り出して菘は格子窓に腰掛ける青年を見つめた。


そして、思わず息を飲んだ。


月明かりに照らされた端整な面差し、透き通る様な長い銀髪。


瞳の色は青。


それだけで、この青年が人でないことは一目瞭然だ。


そっと着物の合わせ目に手を忍ばせると、彼女は短刀を抜いて青年に襲いかかった。


「ほう・・・」


対する青年はそれを軽く避けると、格子から降り、素早く菘の腕を掴んで動きを封じた。


短刀が畳に転がると同時に菘の視界が反転した。


「あ」と気が付いた時には畳の上に組み伏せられていた。


喉元に、切っ先を突き付けられる。


一瞬、菘の瞳が凍りついた。


「俺の正体を知って狙ったのか?」


「・・・さい」


「・・・?」


「・・・殺して、ください」


消え入るような声で呟かれたその言葉を彼は聞きもらすことはなかった。






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