02

 


血塗れの蓮華を抱えながら彼は歩く。


竹林を抜けると、そこにはぐったりとしている菘を抱き抱えた蒼詠と朔が待っていた。


「終わりましたか……」


蒼詠は少し辛そうに目を細める。


和葉は何も言わずそのまま歩き続ける。


その後ろを二人は黙ったまま付いて行く。


竹林を抜けた先は林になっており、辺りはとても静かだった。


「……菘はまだ目を覚ましそうにないか?」


「はい……」


「そうか」


「あの、和葉様…」


蒼詠が言葉を続けようとした時だった。


いきなり目の前に何かが躍り出てきた。


危うく和葉とぶつかりそうになる。


「……!?わ、和葉様っ……!?」


躍り出てきた何かが突然そう喋ってきた。


首の後ろで束ねた金髪が尻尾のようにふわりと舞う。


「白蛇かーーー」


「何でこんなところに……!」


「何故って貴方、もうすぐ合流地点ですよ?」


和葉が答えるよりも早く蒼詠がそう嗜める。


「……っ!?まずい……もうそんなか……!すみません、和葉様!」


「……和葉様」


「すみません……どうやら引き連れて来ちまったようです」


申し訳なさでいっぱいになりながらそう頭を下げると同時に、顔を布で隠した者達に囲まれていた。


「切り抜けるしかないな」


和葉のその言葉を合図に一斉に走り出す。


妖の血を引く彼らの足は速い。


しかし、追いかける敵も負けじと付いてくる。


「和葉様!このままでは時間の問題です……!」


ギリッと和葉は歯噛みする。


人を抱えたままでは戦えない。


そう思った時だった、前方からも敵が現れたのは。


「和葉様っ……!」


蒼詠が和葉の名を叫んだ時だった。


何かが和葉の真横を駆け抜けた。


何かが木を足場に蹴り飛び、宙を舞った。


そう、舞ったのだ。


それが人だと和葉以外の者が気付いたのはその人物が空中で優雅に刀を抜き放ってからだった。


彼女ーーー菘は着地すると鞘を和葉に向かって投げ放った。


彼女自身は身を翻して敵をなぎ倒していく。


一方受け取った和葉は鞘を見つめてうっすらと口許に笑みを浮かべた。


和葉の腰には二振りの刀があった。


一つは今菘が手にしているもの、そしてもう一つが今彼の腰にある刀だ。


こちらの刀は抜けない。


父の形見で自分にしか抜けないのだ。


それをあの娘は瞬時に把握した。


一度掴んだが違和感を覚えたのか瞬時にもう一振りの刀に手を伸ばしていた。


和葉は前線で刀を振るっている菘を見る。


本当に見事だと思う。


本来の使いなれた武器ではないにも関わらず刀を使いこなしているのだから。


しかし、少し重いのか戦いにくそうだ。


和葉はそっと自身の懐に手を伸ばす。


取り出したのはあの日、彼女が初めてうちに来た日に預かった短刀だった。


「菘!」


名を呼ばれて振り返った彼女に向かって短刀を投げる。


彼女は右手を伸ばし短刀を受けとると、和葉の刀を地面に突き刺した。


それを見て和葉は腕に抱いていた蓮華を蒼詠に託すと刀を回収しに向かった。






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