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心臓が早鐘を打つ音が五月蝿いくらい頭に響いている。
その場にいたたまれなくなって菘は部屋を飛び出した。
表へ出ると頬を風が吹き抜ける。
「気付いていたんですね・・・」
菘は背後を振り返らずに、正面を見据えて口を開く。
いつの間にか背後には和葉が立っていた。
「・・・いつからですか?」
不意に、菘が振り替える。
風が二人の髪を靡かせる。
「ーーー最初からだ」
それを聞いて菘は寂しげに笑った。
「ここへ来た日、わざと外したのをご存知だったんですね」
「ああ」
「そう・・・ですか・・・」
ここへ初めて連れてこられた日、彼に刃を向けた。
もちろん、外すつもりで。
傷つけるつもりは最初からなかったが、自暴自棄になっていたのだ、きっと。
斎紫にはあやかし屋を頼れと言われていたのに。
勝手な話だが、気付かれて良かったと思う。
隠し事が多ければ多いほど、日が経つにつれて罪悪感に押し潰されそうになる。
「別に・・・責めるつもりはない。ただ・・・勿体無いと思ってな」
「え・・・?」
「俺は・・・菘、お前さえ良ければこのまま仲間になってくれたらと思っている」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「わ・・・たしは・・・武器を捨てなきゃで・・・斎紫様にも・・・今だって普通に生きるために・・・」
「ーーーそれは、本当にお前の意思か?」
はっと胸に衝撃が走った。
ーーー意思。
それは今まで自分とは無縁のものだった。
しかし、ここへ来る前、祓い屋を出ると決めたときからそれは自分にもあると分かった。
自由になるために、自由に生きるために、自分らしく生きるために自分は今ここにいるはずだ。
「武器を捨てろと言うのは斎紫の想いだろう?お前の意思じゃない。もしーーーその手を汚すためではなく、守るために戦うのであれば・・・待っている」
ーーー待っている。
いいのだろうか。
ここにいても。
ここにいたいと思っても。
自分は斎紫を守る立場にあったのだ。
そこから逃げた自分でも、また、手にしても良いのだろうか。
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