02

 
 



ぱりん、という音と共に先程まで手にしていた皿が割れた。


ゆっくりとその光景を目にして「ああ、割れたのか」とようやく理解した。


「・・・っ」


微かな痛みとともに指から血が出る。


割れた破片を取ろうとして手を切ってしまったようだ。


しかし、それもどこか他人事の様に思えてしまった。


「あんた、何してんだよ」


その声は不機嫌そうなのに、眉を寄せる顔はどこか切なげだった。


「血、出てるじゃん」


「そう・・・ですね」


「あんた頭大丈夫?熱でもあるの?」


少しきつい物言いではあるけれど、そこに心配の色が伺えて菘は薄く微笑んだ。


「はい。大丈夫です。少し、ぼうっとしてしまって・・・」


先ほどまで、視線が気になって緊張していたはずが、皿を割ってから急に頭がぼうっとしてきた。


悪いのは体調ではない。


心の方だ。


日に日に胸が辛くなっていく。


そんな菘を隣で朔は溜息混じりに見ていた。


「油、切れてるし・・・買いに行こうよ」


「え・・・」


「な、何?文句あるの?」


「い、いえ・・・。一緒に?」


「そうだけど・・・。用でもあるの?」


「いえ・・・」


「だったら・・・!!」


そこでようやく立ち上がると、菘は朔の顔を見て薄く微笑んだ。


「嫌われているものだとばかり思っていたので、嬉しいです」


軽く目に涙をためながら手を握られて朔は顔を真っ赤にした。


「き・・・きき、嫌いとかじゃなくて・・・その・・・和葉様の女として認めるのは別」


「ふふ」


「な、何が可笑しいんだよ!!訳分かんない!!と・・・とにかく買いに行くよ!!」


「はい。今、仕度をしてくるので少し待っててください」


目元を拭いながら下駄を脱ぐ菘をその場で見送ってから朔はその場にへたり込んだ。


「わ、笑った・・・」











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