04



「そう、ですか・・・」


まだ、ここに来て日は浅いのに少しだけ胸が痛んだ。


「あの・・・私に、何かできる事はありませんか?」

胸元に手を当てて、菘は頼りなさげに眉を下げて問う。


「皆、必要だからここにいるのです。各々がここに居たいと思うからいるのです」


すっ、と笠を上げた蒼詠と目が合う。


「気付いていましたよ。貴女が、我々と同じ目をしていることを」


敵を見る時の目。


あれは戦う者の目。


「貴女には、あの方を支えてほしい」


風が蒼詠の長い髪を靡かせる。


「・・・そう、思うのは・・・私の傲慢さかもしれませんね」


深く笠を被り直すと、蒼詠は菘に背を向けて歩いて行く。


「―――では、失礼します」



* * *










月明かりの射し込む室内に、白蛇は音も無く姿を現す。


「―――和葉様」


「―――白蛇か」


煙管を燻らせながら和葉は白蛇の方を見る。


「何だ?」


「山の麓(ふもと)の方でどうやらここを探している者がおりまして・・・」


「―――ほう。ここを、か?」


白蛇は口端を上げる。


和葉の言うこことは、この隠れ里ではなく、『あやかし屋』を意味している。


「―――久しぶりの仕事ですよ」


煙管を加えて離すと、和葉は白蛇の言葉に口端を上げた。


「―――俺が引き受けよう。久々の依頼だ」


「助かります。いや、実はおやっさんと都に行く事になりまして・・・」


後ろ頭を押さえて「ははは」と笑う白蛇を見て、「お前が勝手について行くんだろう」と和葉は心の中で思った。


「―――で、これは提案なんですが・・・。蒼詠もいないことですし・・・姫さんと一緒に行かれては?」


思いがけない白蛇の提案に和葉は眉をしかめる。


煙管をやめて杯に手を伸ばすと、和葉はそれをゆっくりと口に運んだ。


彼は思案したりする時にたまにこういう動きをする。


「そいつは何者だ?」


ゆっくりとした口調だが、そこには少し警戒が含まれていた。


白蛇は元々細い目をさらに細める。


「恐らく近くの村の民かと。ただの人ですよ」


「そうか」


どうしたものかと酒を飲みながら思案していると、見透かした様に白蛇が笑みを浮かべた。


「お手並み拝見といけば良いじゃないですか」


眉を寄せると和葉は白蛇を睨み付けた。


「なんなら変装させれば良い」


和葉一人で行かせるよりは彼女がついていた方が良い。


あまりにしつこい白蛇に和葉はため息を吐いた。


「・・・考えておこう」


「ありがとうございます」


「―――だ、そうだ。どうする?」


誰もいない部屋の入り口に向かって和葉は声を発した。


それを見て白蛇は目を丸くする。


「鈴、姫様・・・」


申し訳なさそうに姿を現した菘は部屋の前で手をついて頭を下げる。


「申し訳ありません。聞くつもりはなかったのですが・・・」


「あなた忍ですか・・・?」


「忍ではありませんが、似たような鍛え方はされていると思います」


「・・・で、どうする?俺と一緒に来るか?」




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