04






* * *





―――和葉様。と誰かが自分を呼ぶ。


「・・・っ」


ゆっくりと瞼を開けてみたものの、眩しさに目が眩む。


「・・・良かった、気が付かれたのですね」


声に驚いて目を見開けば、目の前には菘がいた。


「・・・ここは?」


よくやく声を発した和葉が少し不機嫌そうに見えたのは菘の気のせいではないだろう。


菘は、朝は苦手なのかもしれないと思った。


「私が、昨夜からお借りしている部屋です」


少し痛む頭を押さえながら辺りを見回すと、確かに彼女に与えた部屋だった。


「俺は、初めからここにいたのか?」


「随分とうなされていたので、私がこの壁にもたれさせました。勝手に、申し訳ありませんでした」


謝られる意味が分からない。


いや、それよりも。


彼女が自分をこの位置へ運んだことに和葉は驚いた。


自分はそれなりに体重があるはずだ。


ふと、着物の上からぱたぱたと懐やら袖やらを確認する。


そこにいつもあるはずのものがないことに気づき和葉は慌てた。


「あの、もしかして・・・探し物はこれですか?」


「・・・」


「そちらに落ちていたのを、先程見つけまして・・・」


スッと差し出された煙管を呆然と受け取る。


「あ、ああ。ありがとう」


自分でも驚いた。


今までこの煙管を誰かに触らせた事はなかった。


今、彼女に触れられても別に嫌な気はしなかった。


動揺はしているが、今まで重たかった心が少し軽くなった様な変な気分だ。


そこでふっと自嘲する。


「・・・形見なんだ。今まで手放した事はなかったから、自分でも驚いた」


何の事を言っているのか菘には良く分からなかったが、和葉の表情を見て少し胸が重くなった。


例えるならその表情は憂い。


大切だと言うのにどこか寂しそうな横顔。


何か、違う意味があるのではないかと思うほどに。


「あ、あの。私、何か用意して来ますね。顔色があまり優れない様ですし・・・少し、休んでいてください」


ぎこちなく微笑むと、菘は部屋を出て行った。


おそらく向かった先は台所だろう。


「・・・やはり、まだ顔に出るか」


何十年、いや、何百年はとうに過ぎたと言うのに。


そこでふと、和葉は思考を止めた。


「・・・何か、と言っていたな」


この屋敷は案外広い。


迷子になっているのではないかと思い立ち、腰に刀を刺すと和葉は立ち上がった。






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