06



それを聞いて思い当たる節があるのか、菘は軽く目を震わせた。


「遅くなったが。―――俺の名は和葉」


「和葉・・・様・・・」


真名を名乗るのは命取りになる。


その言葉を菘は胸の中で反復した。


「この話はこのくらいにして。部屋は用意しよう。この部屋を自由に使ってくれ。入り用の物は追って用意しよう。必要な物があったら言ってくれ」


「そ、そんな・・・!!おいていただけるだけでも有り難い事です!!」


「俺としては、ずっとここで働いてくれても構わないんだがな」


「え・・・?」


「ここは常に人手不足だからな・・・」


ふっ、と煙管を吹かせると、和葉は薄く笑みを浮かべた。


「そういえば。ここでは、皆で交代で雑用やら炊事をやっている。そうだな・・・お前には、俺の相手でもしてもらおうか?」


その妖艶さに背筋が凍りそうではあったが、それ以前に和葉の言った内容に恐怖で身体が震えた。


「・・・と、言うのは冗談だ。まあ、あながち冗談ではないがな・・・そう構えなくて良い」


ふらっと立ち上がると、彼は盆の上に用意されていた酒瓶を菘の目の前にかざした。


「―――酌でもしてもらおうか」


菘は唖然と目を見開いた。


無理もない。


和葉が口にした内容は、彼女が予期したものと大部かけ離れていたのだから。




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