06
それを聞いて思い当たる節があるのか、菘は軽く目を震わせた。
「遅くなったが。―――俺の名は和葉」
「和葉・・・様・・・」
真名を名乗るのは命取りになる。
その言葉を菘は胸の中で反復した。
「この話はこのくらいにして。部屋は用意しよう。この部屋を自由に使ってくれ。入り用の物は追って用意しよう。必要な物があったら言ってくれ」
「そ、そんな・・・!!おいていただけるだけでも有り難い事です!!」
「俺としては、ずっとここで働いてくれても構わないんだがな」
「え・・・?」
「ここは常に人手不足だからな・・・」
ふっ、と煙管を吹かせると、和葉は薄く笑みを浮かべた。
「そういえば。ここでは、皆で交代で雑用やら炊事をやっている。そうだな・・・お前には、俺の相手でもしてもらおうか?」
その妖艶さに背筋が凍りそうではあったが、それ以前に和葉の言った内容に恐怖で身体が震えた。
「・・・と、言うのは冗談だ。まあ、あながち冗談ではないがな・・・そう構えなくて良い」
ふらっと立ち上がると、彼は盆の上に用意されていた酒瓶を菘の目の前にかざした。
「―――酌でもしてもらおうか」
菘は唖然と目を見開いた。
無理もない。
和葉が口にした内容は、彼女が予期したものと大部かけ離れていたのだから。
[ 7/61 ]
[*戻る] [次へ#]
[目次]
[しおりを挟む]
(c) 2011 - 2020 Kiri