02


そんな、何と言うことだろう。


私が霜惺様と血の繋がった兄弟かもしれないなんて。


よねの頬を涙が伝う。


「……!?す、すまない……そんなに」


「……っ!」


珍しく狼狽しながら駆け寄る霜惺を振り払い、よねは勢い良く飛び出した。


「よね……!」


背後から自分を呼ぶ声が聞こえたが聞こえないふりをする。


ああ、なんということでしょう。


姫様。


舞姫様。


私は叶わぬ恋ばかりか禁断の恋をしてしまっていたようです。


集落へと続く坂道を転がるように駆け抜ける。


不意に何かに躓いてそのまま坂道を転がり落ちる。


「……っ」


最後は地面にうつ伏せの状態で叩きつけられた。


少し湿った地面を握り締めながらよねは上体を起こす。


「どうしたの?また泣いてるの?」


「え……」


不意に掛けられた声に驚きよねは顔を上げた。


そこには高い位置で長い髪を一つに束ね、少し見慣れない着物に身を包んだ青年がいた。


青年はきょとんとした顔をしてこちらを覗き込んでいる。


「あ……あの、えっ……?今、この里には誰もいないはずで……」


「ああ、俺はこの里の者じゃないからね」


「え……」


「忘れちゃったの?よね」


忘れた?この青年のことを?


こんな知り合いはいないはずだ。


「ひ、人違いでは…」


「だって、よねはよねでしょ?」


青年は心底不思議そうに首を傾げた。


「貴方は、誰……?」


「俺?俺は光(コウ)」


「光……」


「光陰」


「……分からない」


「じゃあ、桜のことも忘れちゃったの?」


「桜……」


よねがそう呟くと不意に目の前に一人の少女がいた。


その少女を見て、よねは目を見開いた。


「桜……桜って……そんな、どうして……?」


そこにいたのはいつか見たことのある少女だった。


幼い頃、まだこの里にいた頃に遊んだことがある少女。


十くらいに見える外見はあの頃と変わらない。


「人じゃ…ない……の?」


「神に使える巫女は年をとらない」


外見とは裏腹に少女はとても大人びた口調でそう告げる。


「私はこの山の、山之神に使える巫女」


少女はゆっくりとよねに歩み寄る。


そっと冷たい手がよねの頬に触れる。


「泣いてるの……?」


「これは……」


「光に泣かされたの?」


「ち、ちがいます、これは坂を転んでしまって…」

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