06

 
 
名を呼ばれた方も、まさかそこに舞がいるとは思っていなかった様でぽかんとしていた。


「舞・・・」


そっと手を伸ばしかけて、しかし彼は顔を苦痛で歪ませるとそのまま床の上に倒れこんだ。


「龍作っ!?しっかりして!!」


彼が着込んでいる青い着物は、腹部の辺りが微かに血で汚れていた。


そうとう傷口が痛むのだろう。


舞姫の呼びかけにも答えず彼は床でうめいている。


「―――全く。そんな怪我で良くここまで来たものだ」


はっと舞姫が振り返ると、口元に意地悪な笑みを浮かべた霜惺が龍作を見下ろしていた。


「乱暴に扱うなと式には伝えたはずだったんだがな・・・」


「式って・・・あんた、またとんでもないものを式にしたんだな」


「ふん。貴様ほどではない。私はちゃんと自分の力量をわきまえているよ」


「そんなことより早く血止めの術を施すとかなんとかしなさいよ!」


舞姫が叫んだことによってようやく霜惺は龍作をからかうのをやめた。


「・・・全く。仕方ない、姫の仰せだ。不本意だが手当てしてやるかな」







* * *






鬱蒼と生い茂る木々をものともせず、少年は歩いていく。


程なくして足を止めると、誰もいない空間に向かって口を開く。


「お前が龍作をここまで案内したのか?」


すると、目の前の木から赤い着物を着た男が姿を現した。


額の二本の角が木漏れ日で反射する。


「担いできた、というのが正しいな」


「あんな怪我人を担いで山を走ったっていうのか・・・っ!?」


青風は目の前の男を見据えたまま怒りに拳を振るわせる。


「俺は主の命に従ったまで」


「・・・っ」


そんなことはどうでもいい。


そんなことは青風にも分かっている。


「そんなにあの青年が気になるならお前が手当てしてやればいい。そして、また式に戻ればいい」


「なっ・・・」


それだけ言うと彼は姿を消した。


青風は怒りに任せて拳を木に叩き付けた。


「くそっ・・・!!」


木の幹に青風は額を押し付ける。


静かな森に、雄叫びが響き渡った。






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