05
「――――――・・・っ」
伸ばした手が、視界に映る。
額を冷や汗が伝った。
見慣れない天井。
「・・・れ・・・は・・・?」
「――――――気付かれましたか?」
不意に、右隣から女性の声が聴こえた。
「・・・・・・あんたは」
「はい。雪音、です。私が分かりますか?」
「・・・・・・あ、ああ。そうか・・・ここは・・・」
「―――私の邸だが?何か問題でもあるかね?」
声のした方を見れば、御簾を上げながら柱に寄りかかる霜せいの姿があった。
「問題だと・・・?無いわけが・・・っ」
立ち上がろうとして、彼は動きを止める。
反射的に動きを止めたのは癖だろう。
喉元に、短刀が突きつけられる。
「・・・動くなよ?」
「刺せばいいだろう?どうせ死にはしない」
「刺せば血が出る。雪音に飛んだらどうする?」
・・・・・・しばしの沈黙。
「人質に取る、っていう手もあるぞ?」
「やれるものならやってみろ。ただし・・・いくら死なないとはいっても痛みは感じるのだろう?八つ裂きにしてやろう」
スッと霜せいの目が細められる。
本気だ。
「・・・・・・手を退けろ。何もしやしない」
「・・・・・・」
一瞬、チラリと青風の目を確認してから霜せいはゆっくりと短刀を退けると、懐にしまった。
青風は上体だけ起こして改めて己の姿を確認した。
腹の辺りは白い包帯が巻かれている。
「・・・・・・何故、連れてきた?」
「ん?」
「あのまま放置しておいても良かったはずだ」
「誰かに見つかるかもしれない」
「っ・・・見つかるわけが・・・!!」
「無いとは言い切れないだろう?」
青風は唇を引き結んで押し黙る。
「・・・だが、それだけではないだろう?」
青風の明らかなむき出しの敵意にも霜せいは飄々としている。
「・・・んー。ちょっとね。頼みたい事があってさー・・・」
「頼みたい事・・・?」
「あー、君、言っとくけど、君に拒否権は無いよ?・・・その様子じゃ、今は龍作の式でもないんだろ?縛られるのが嫌なら、少し手伝いたまえよ」
「何で上から目線何だっ・・・」
「申し訳ありません」
「あなたじゃない」
「いえ、これも妻の役目でございます」
「そんな役目、私は知らないなー。ああ、雪音?謝らなくていいよ。私は別に何もしてないしね」
「口だけは達者だな、この・・・」
最後まで言う前に霜せいに扇で遮られた。
「―――主を刺しただけでこの程か?」
はっと青風は目を見開く。
「式の暴走は主が止めるべきだろう?これは奴の注意不足では?」
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