03

「・・・どうしてこう、あなたたちは」

「ごめんなさい・・・。でも、私は黙って食われるような柔な女じゃないわ」

舞姫は少し困った様に笑った。

「同じ手に二度は嵌らない」

「・・・・・・、全く、困った人達ですね」

軽く方を窄めて諦めたように青風は息を吐く。

「では、―――龍作様を信じてください。この縁談を蹴る気が本当にあるのなら・・・もう少し足掻いてください」

「青風・・・私は・・・」

舞姫が全てを言うよりも早く青風が舞姫の額に手を伸ばす。

次の瞬間にはもう舞姫は青風の腕に凭れる様にして気を失っていた。

「全く・・・無茶をする。これだから龍作様も目が離せないんですよね・・・」

額に手を当ててみれば案の定熱かった。

「・・・これは冷やさないと駄目だな」

そう言うと舞姫を丁寧に床の上に寝かせて自分は水桶を探しに部屋を出て行く。

月が赤に染まり始めてきている。

月を見上げて彼は忌々しそうに呟いた。

「―――お前の好きにはさせない」




* * *




翌朝。

少し早めに出仕して龍作は内裏の塗籠にいた。

「えーっと・・・確かこの辺に・・・」

ここは陰陽寮にほど近い塗籠だ、そうすると必然的に妖に関する書物が集まっていると思われる。

「あ、あった!これだ!!」

中でもかなり古い書物を見つけると龍作はそれを引っ張り出した。

中を開いてみると微かに字がかすれていたが読めなくはないようだ。

「奴に関する記述は・・・・・・、やっぱり載ってないか」

目当てのものが載ってないと判断すると龍作は書物を元の場所に戻して塗籠を出る。

「龍作様ー。龍作様ー・・・」

上を見上げると青風が屋根の上から顔をのぞかせていた。

「ちゃんと降りて来い」

「わかってますよ。通り過ぎないうちに声をかけただけです。よっと・・・」

音も無く龍作の前に着地するとスッと立ち上がる。

「何か情報は得られましたか?」

「いや、これといって何も」

「そうですか・・・」

「そっちはどうだ?」

「・・・はい。舞姫様の見合いの日取りが決まったようです」

「・・・そうか」

一瞬だけ龍作の瞳が翳った様な気がした。

「しかし、舞姫様の気持ちはちゃんと聞いてきましたよ」

「―――で、何だって?」

「見合いはしたくないそうですよ、できることならね」

そう言って青風は口元に薄く笑みをのせる。

つられるようにして龍作も口端を上げる。

だが二人とも目は全く笑っていない。

「―――なら、俺の好きに動いていいんだな?俺は壊す事しかできないんだぞ?」

「構わないんじゃないですか?どうぞ、貴方様の好きにしたら良い・・・」

そう言うと青風は音も無く姿を消した。

おそらくは舞姫の護衛に戻ったのだろう。

「・・・・・・俺は、必ず・・・」

龍作は、ギリッと拳を握り締めると東の空を睨みつけるのだった。


















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