第四話 六
* * *
―――はっ、と何かに気付いたように龍作が振り返った。
舞姫は思わず目を見開く。
龍作も同様に目を見開いて固まった。
よねは主に気が付くと再び涙を流し始める。
何か言わなくては。
ちゃんと伝えなくてはと思うのに、怖い。
自分はいつからこんなに臆病になったのだろうか。
「りゅ・・・」
「―――本日は、真におめでとうございます」
舞姫が何か言う前に龍作がそれをさえぎった。
「え・・・?」
「縁談の話がきているとか・・・そしてそれを承諾したとお聞きしました。良かったですね」
伏せていた顔を軽く上げて龍作はほんの少し寂しそうに微笑む。
対する舞姫はあまりにも突然な龍作の行動が理解できずにいた。
「直忠様から言われたでありましょうが・・・。これでお役ごめんって訳ですね。私と貴女様がお会いするのもこれが最後となりましょう。どうか、お幸せに」
畳に手を付いて一礼すると龍作は逃げるように部屋から出て行った。
龍作が出て行ったの確認すると舞姫はその場に崩折れた。
「姫様・・・!?お待ちなさい、龍作様!!」
舞姫をその場に座らせてよねは龍作の後を追いかける。
一人部屋に残された舞姫の頬を涙が伝う。
―――・・・嗚呼、なんて事を。
結局自分は二度も龍作を傷つけてしまったのか・・・。
愚かしいにも程がある。
龍作の態度は当然といえば当然。
始めにそういった態度をとったのは自分なのだから。
それでも彼は身をあんじて毎日様子を見に来てくれていたというのに・・・。
自分はなんて愚かだったのだろうか。
* * *
「お待ちなさい!!龍作殿!!」
沓をはいて帰ろうという所によねが鬼の形相で走ってきた。
「よね・・・」
「いったいどういうおつもりですか龍作様!!露骨に姫様を傷つける様な事をおっしゃって!!」
龍作は視線を少しさ迷わせる。
けれど、よねの視線は言い逃れなど許さないといっている様だった。
仕方なく龍作はよねを正面から見据える。
「なあ、よね。ここから先のことは全て俺に任せてはくれないか?」
予想だにしていなかった問いかけによねは明らかに狼狽した。
「な・・・なんですって!?」
「―――頼む」
しばしの間を置いてよねは龍作を睨みつける。
「その言葉、信じてもよろしいのですね?」
「ああ」
龍作は小さく苦笑する。
「・・・そもそもこの俺があいつを本気で見捨てるとでも思ったのか?そんなわけないだろう」
「そ・・・それは・・・そうなのですが・・・。つい・・・頭に血が上ってしまって・・・」
「―――舞を頼む。よね、信じてくれてありがとう。じゃあな!!」
そう言って龍作は桜木邸を出て行った。
「・・・龍作様、頼みましたよ」
よねの呟きは、夕立によって掻き消された。
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