第四話 四




冷たい廊をゆっくりと歩いて行く。

春とはいえ、まだ肌寒い。

ふと、庭先を見れば枝垂桜が揺れている。

風に乗って花びらが空を舞う。

空が薄暗いにもかかわらずその花びらは光って見えた。

舞姫は再びゆっくりと歩き出す。

できれば父様の部屋へは行きたくはなかった。

一つの部屋の前まで来ると足を止め、両膝を付いて一礼する。

「失礼いたします。舞にございます」

「入れ」

少し低めの声が中から聞こえた。

「はい」

ひとつ返事をして舞姫は部屋の中へと入る。

優しかった父は急変し、母は様態があまりよくはない。

全ては妖のせい。

けれど・・・。

「舞よ、何故呼ばれたかわかるな?」

「・・・・・・」

「お前に、縁談が来ている」

「・・・・・・縁談」

舞姫はあまり衝撃を受けたようには見えなかった。

むしろ初めから全てを悟っていたかのような顔をして父を見つめる。

縁談などは以前からも数回上がっていた。

今までであれば突っぱねただろう。

けれど、それはできない。

これ以上、母を巻き込むわけにはいかないのだ。

「そのお話をのめば・・・」

「桜木の地位は絶対的なものになろう」

舞姫はぐっと唇をかみ締める。

父様は本当にこんなことを望むだろうか。

けれど、これが妖の仕業ではなく、父様ご自信の意見だったとしたら・・・?

「・・・・・・わかり、ました」

目を伏せてためらいがちにそう言うと直忠は満足そうに笑った。

「では、龍作にはお前から話せ。もう話し相手など不要だと。金が必要なら申せと言え」

「・・・・・・なっ!?」

「何か不満でもあるのか?当然であろう、他の男の下へ嫁ぐのだから・・・。いつまでも他の男と会っていて相手方も不満に思おう」

最もだった。

この縁談を承諾すれば龍作との関係もここまで。

別に、元より恋仲だったわけでもなんでもない。

龍作は元々私の話し相手として父様に雇われていただけなのだから。

信じていないわけではない。

ないのだが・・・。

どうしても心が揺らぐ。

もしかしたら龍作は初めから嫌いだったのではないだろうか、と。

だから、これで清々するのではないだろうかと。

そこまで考えて、フッと自嘲する。

これでは奴の思う壺だ。

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(c) 2011 Kiri



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