ふやけた指〈みゆゆう〉



 色に狂う姉が双子の弟にも人肌の熱を分けるのは、とうの弟である美由にとっては大層なことではなかった。
 倫理的には忌むべきことであり、法的にも認められないことであるが、彼女のしたいことをしてほしい。
 子孫への不具合が現代では禁忌とされる理由の多くを占めるのだから、子どもができなければいい。姉の体が傷つくようなことにならなければいい。
 世間様から性に乱れた若者として嘆き怒りを買いそうな思考を薫せて、美由は夏向きの薄い寝衣をまとって自身を跨ぐ優を見上げた。
 双子が一つの寝台で眠ることは珍しいことではないので、深夜に優が触れ合う位置にいることに疑問はない。
 一瞬前まで眠っていた美由はゆらめく視界に姉の笑みを映し、ああ、と察する。
 眠れなかったのか、労しい。
 なんとなく眠れないなど誰しもにあることで、優はその際にどうするかの手段があった。
「眠いかい」
「だいじょうぶ」
「すまないね。眠そうだ」
 寝つかせるようなやさしい指先が美由の前髪を払い、頭を撫でる。
 とろりと眠りに戻りそうな意識を数回の強いまばたきで追い出し、美由は優の腰を片腕で支えながら上体を起こす。
 掛布の上にいた優は美由が寝起きの体温だとしても、少し冷えて感じた。
 暖めようと抱き寄せながら美由は身を捩ってナイトテーブルへ手を伸ばし、蓋のついた小ぶりの瓶を開ける。少しの甘苦い香りと清涼感。
 口へミントチョコを放り込む美由に、優は途端はしゃぎ出して美由の寝衣の下へ手を忍ばせる。
 クリスマスプレゼントのリボンを解くこどもに似た姿に、美由は仕方のないひとだと苦笑しながら優の脚をなぞり、太腿を撫で上げる。内腿はほんのり押すように親指で。そのまま奥へ進めば肌よりも熱いところへ行き着く。
 優は晒された美由の肩へ抱きついて、白い肌を甘噛みしていた。密着した体の間で優の胸が僅かに美由を押し返す。
 深夜に美由を起こした優は、丁寧に熱を炙られることを望んでいないだろう。
「指、貸しておくれ」
 膝立ちになった優を追いかけた美由の指がとろりと濡れる。
 柔らかな果実を握り潰したような感触。喰まれているのは美由の指。ローションを使う必要のない柔らかくぬめった粘膜。いまは暗がりで見えぬ肉の色を美由は知っている。
 優の目は星空を映した池のように濡れて、時折きらりと光った。
 恥も知らず優は片手を美由の肩へ乗せて自身を支え、もう片方の手を美由の手首まで濡れた手に絡める。にるにると指同士はなめくじの交尾に似た動きで重なり、優が取った指を美由はそのままぬかるみへ埋める。
「ん、ん……」
 美由が指を突き立てていれば、優は腰を落として徐々に好き勝手動き始めた。美由の指を使って自慰に心地良さそうな声を上げる有に、美由の目尻は下がって口角は上がった。
 たのしそうだこと。
 やれうれしと美由は微笑むのだ。
「っは、きもちっ」
 爪を立てるような強さで肩を鷲掴みにされても、美由の微笑は崩れない。優の太腿が強張って震え、きつく回した螺子のように固くなったところで美由はどろりと音がしそうなほどとろけた貪婪なる穴から指を抜く。
 震えながら美由の上に座り込んだ優の小刻みな呼吸が整わぬうちに美由は姉の頸を撫でて、僅かに浮いた顔へ促すように濡れた手を添える。
 季節外れの花さえ開いて花粉を舞わせそうな声を上げていた唇を呼気ごと奪い、じるじると唾液が顎を伝うほど口を舐り合う。
「……シャワーは?」
 じんと痺れた唇を離し、美由は伺う。
「したい」
 優は濡れたままの美由の手を取り、ぱくりと咥えて吸った。

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