兄上との約束
なにが起こったのかわからず、メフィストの膝の上で、目を覆われながらぱちぱちと瞬きをした。
メフィストの魔法で防がれた攻撃が、書類と共に砂煙を巻き上げていく様子を横目で見た。
「片付けはするんだろうな、アマイモン」
怒気に溢れたメフィストの声が頭上から聞こえてきて、向けられているのは自分では無いのに身を縮めてしまう。
「ああ、アナタに言っているのでは無いのですよ。安心してくださいね」
身を縮めてたのがわかったのか、猫なで声が降ってきて、もう片方の手が真の膝を撫でる。
直後にまた呪文を呟き、パチンと指を鳴らす音が聞こえる。
「兄上、その女をもっとよく見たいです」
「だめだ、お前では壊しかねない」
「奥村燐には触らせたのにですか」
「力加減が出来ない奴に触らせる危険は犯せない」
「兄上」
「だめだ」
メフィストとアマイモンがお互いに言い争いをしているのを、沈黙を守って聞いている。
アマイモンは玩具を壊しちゃうタイプだと思うから、是非メフィストには頑張って欲しい。
「わかりました。触りません。だから見せてください」
アマイモンの精一杯の妥協なのだろう、その言葉にメフィストが少し考え込む。
「触らないのか。話すのもだめだぞ」
「触りません。お話はしたいです」
「触らないんだな」
「誓います」
「なら話すくらいは許してやる」
メフィストの手がそっと外れて光が目に入る。
瞬きを繰り返してから、私は土埃にまみれているアマイモンを見た。
目があった瞬間に身体に力が入ったようだが、上がった腰をその場に下ろし、口を開いた。
「はじめまして、地の王アマイモンです」
「はじめまして、真です」
お互いに自己紹介をして、取り留めのない話をした。
美味しい爆弾焼きの話や、燐のこと、魔界の様子。
部下やそのほかの悪魔の話。
メフィストはその間、指パッチン一つで元通りになった書類を片づけていた。
だいぶおしゃべりした頃、アマイモンが空腹を訴えた。
「お腹が空いたので、ご飯を食べます。また、おしゃべりしましょう、真」
止める間もなく彼は窓から飛び降りた。
「…メフィストの弟はなんというか、個性的だね?」
「兄はもっと個性的ですよ。私達も食事にしますか?」
「そうだね、なにが食べたい?」
「マカロニグラタンを」
「頑張る!」
アマイモンとのおしゃべり、結構楽しかった。
またお話したいな。
「見てるだけ、兄上の約束。触らない。けどお話はいい。真、真、真。可愛い?素敵?違う。魅力的?そうだ、魅力的。兄上のモノだけど、兄上は僕におこぼれをくれる。だから、兄上との約束を守れば真とお話できる。真真真真。兄上の真。だから少しは僕の真?。一緒にいたい」
「突然来てどうしたってんだアマイモン。ていうか真は俺達だけの秘密だからな。言いふらしたら多分見るのもだめだと思うぜ」
「奥村燐の言うとおり。言い触らさない。僕たちの秘密。ところで、奥村燐」
「なんだ?」
「良い目になりましたね」
「真のおかげでな」
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