「嗚呼、あの時急いでたのはそういうことでしたか」
「実はそうなんです……あ、あの、与謝野さんがいないから言えることなんですけど、私あの時結構迷惑かけてて。熱もかなり上がったので与謝野さんが過保護かってくらい、……心配してくれて。薬がよく効く体質だから『薬を飲んだら治ります』って言ってるんですけど、全然離れてくれなかったんですよ。だから今熱で寝込んでるんでしょうけど……」
「それは微笑ましいですね。もしかして結の彼女さんって貴女ですか?」
「……へ?! 彼女!!?」

白雪姫は分かりやすく動揺した。元々赤面症なのだろうか、ほのかに赤かった頬を露骨に真っ赤に染め、声を荒げた。今まで控えめな声量だったためこんな声も出そうと思ったら出るのか、と頷く程にはわざとらしくも見えるリアクションで、俺の方を二度見していた。勿論、それに加えて、目にゴミが入ったのかと思える程の瞬きもしていた。彼女、演技は上手いのかもしれない。

「よ、与謝野さんって彼女さんいらっしゃるんですか……。というかあの人、やっぱりモテるから彼女がいない方がおかしいよね……、どうしよう、彼の思わせぶりな態度はただあの人がお人好しなだけで、恋愛感情なんて私に微塵もなかったのでは……」
最初は俺に対して確認を取ろうとしたのだろうが、どんどんその言葉は独り言へとフェードアウトしてしまった。内気と言えばおしとやかに聞こえて印象はいいが、どうやら他人とコミュニケーションを取るのが苦手らしい。
「そういえば、こういうタイプの女性はサンドリヨンにはいませんよね」
「え? そ、そうね?」

突然話を振られた灰音さんも分かりやすく動揺してる。それが面白くて俺は小さく微笑んだ。灰音さんはどうやらそれが気に食わなかったらしく、森さんに見えないようにふくらはぎの辺りを蹴られた。部位も部位なので全然痛くなかったのが拍車をかけて、更に灰音さんの頬を膨らませた。かわいい。

「いや、彼から直接聞いたわけではないですよ。ただ口ぶりからいるのかなーって思っただけで。不安にさせてしまったらならすみませんね?」
「何で笑いながら言ってるんですか……男の人怖い……」
「いや、意外と俺の近くにはそういう奥ゆかしいタイプの女性はいなかったので。皆我が強いんですよ、特に隣の人とか」
「調子に乗るな!」

灰音さんは容赦なく、続けて先程と同じところを蹴った。どこかでもお伝えしただろうが、灰音さんは反射神経こそ人並み以上にあるが、体術的なことはそれほど長けていない。増してや天狐に耐久力を授けられた俺のことだ、それは反射で「痛っ」と言うにも値しないか弱い攻撃なのである。

prev|backnext


(以下広告)
- ナノ -