「バレンタインデー?」
「そう、バレンタインデー。深夜は少年に渡すのだろう?」

ここは夜に一攫千金を夢見た輩が集うカジノ【Algernon(アルジャーノン)】―――ではなく、昼のまだ営業していない、人は営業員しかいない何とも和やかな雰囲気が流れるレストランである。
実際アルジャーノンはカジノ以外にも、アルジャーノンの管理人であるディーラーがレストランを経営していたりする。その料理の腕はプロの料理人顔負けであり、その料理目当てでアルジャーノンに訪れる客も少なくはない。
今はその料理人である管理人の彼はいないわけだが、代わりに客が普段座るカウンターに二人の女性が座っていた。

「私、バレンタインデーにチョコ渡したことない」
「そうなのかい? あまり世間に詳しくなさそうだとは何となく思ってはいたけれど、それはちょっと意外だったねえ。ああ、そもそも少年が深夜に優しくしたのが珍しいことなのかね」
「……そうだと思う」

深夜と呼ばれた彼女は、俯きがちになり言う。もう一人の女性はそんな彼女を見て少し考えたような顔をしたが、すぐに笑って相手の肩を軽く叩いた。

「大丈夫、私が教えてあげよう。心配しなくても少年は深夜の贈り物を嫌がることはないよ」
「そうかな?」
「普段はああやってつんけんしているけれどね、結局は思ってもらえるのが嬉しいはずだよ。特に深夜、君からはね」
「……ありがとう」

日本の首都、東宮(ヒガシノミヤ)の合法カジノはアルジャーノン以外にもいくつかある。そこを徘徊して利益を得ているのがギャンブラーの尾崎深夜(オザキ ミヤ)である。今ではアルジャーノンに居候しているような形となっている。
そして彼女と会話しているモデル体型のもう一人の女性は、有島新(アリシマ ニイ)。自分はアルジャーノンでバーテンダーを務めており、彼女の弟も同じ職場で働いている。


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