「罰だよ」
驚いている私に、友里は煙草に火を点けながら言う。
「罰?」
「中学時代、ずっと見ていたのに、気が付かなかった罰。それと」
友里は美貴を見る。
「私以外の奴と、キスをした罰」
「何を言っているのか、意味が分からない」
「マリーは真面目過ぎんだよ。型にはめて、何でも思い込もうとしてさ。今だって女同士でって思ってたでしょ?」
美貴がすっと立ち上がる。
「どこに行くの? そこに座って居なさい」
少しきつい口調で、友里が言う。
「この子、ヤキモチ妬きで、あんたが来るって聞いた途端、怒りだして仕方がなかったんだ。私は美貴だけのもんだから、安心しろっていうのに、聞かないで困ったよ」
「だ、だったら尚更まずいじゃない。こ、こんなことしちゃ」
「そうだね。まずいよね」
友里は美貴を引き寄せて、濃厚なキスを始める。
私は荷物を抱えると、部屋を飛び出した。
扉にもたれ掛り、私はその場から立ち去られないでいる。躰の奥に、火が点いたように火照っていた。
この扉の向こうで、何がされているのかが、知りたかった。
「戻って来ると思った」
美貴を膝の上に座らせた友里が微笑む。
「たまには、刺激がないとね。あんたは、からかいやすいから良いわ。この子も分かってくれたしね」
屈折していると思った。
どこでねじれてしまったのだろう。ビールを注がれたグラスを手に、友里をそっと見る。
あの頃も、こけしのようにかわいらしい顔をしていると思ったけど、化粧をするようになってから、もっとそれが映える様になった気がする。
「で、頼みって何?」
「友達が妊娠して、その承諾書を書いてくれそうな人を探しているんだけど」
「相手の男に、やらせればいいじゃない?」
酔いが回った美貴が、口を挟む。
「それが家庭もちで、ダメみたいなんだ」
「ああ嫌だ。男はずるくて吐き気がする」
そう言う友里を、うっとりとした目で美貴が見て頷く。
どうにでもしてくれと、やけ気味に私はグラスを空にする。
「一人だけ頼めるかも」
友里が、煙草の煙を天井に向かって吐き出しながら言う。
「誰?」
美貴が訊く。
眉を顰め、睨むように見る美貴を見て、これは大変だなと思いつつ、私も身を乗り出す。
「サークル仲間だった奴。今は女しているんだけど、ちょっとそいつに貸があるから、手伝ってもらえると思う」
私は、思わず吹き出してしまった。
友里の言葉に、いちいち反応を見せる美貴がおかしかった。[
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BKM]