この街は人の欲望が吹き溜まり、誰もが素顔を隠している。
高級店がずらりと立ち並ぶ道を一本隔て、私が勤める店はある。
庶民的な店。それが売りだと店長は言うが、揃っている女性は年配者からこてこての田舎ものばかりで、来る客の質もそれほどよくない。
細渕は一週間に一度、私の宿泊している部屋の来ては、お金をむしり取って行く。理由は様々で、呆れるほど嘘が下手だ。真正面から信じられない私の言葉の棘を、細渕はいとも容易くすり抜けて行く。
毎日のように店に掛かる電話。
昼から店に詰め、客を待つ。
若さだけが売りの私。サービスをしようとも思わないし出来もしない。店長からも他の子から達も嫌われているのは、自分でもよく分かっていた。
死にたい。それだけが頭を閉める。
隣人は、男を連れ込み卑猥な声が漏れ聞こえて来る中、私は細渕からかかる電話をひたすら待っていた。
そんな私を弄ぶように、ふらりと部屋にやって来ては、布団に横たわり、にやりと笑う。
「俺が欲しかったんだろ? ほら銜えて良いぞ。全部綺麗に飲みこめよ」
一瞬の戸惑い。
それでも私は細渕の唇にむさぼるように合わせて行き、舌をねじ込む。
おじゃなりで細渕の指が私の体に這って行くが、それ以上は何も無い。ただひたすらに、私は客にするように細渕の体をくまなく嘗め尽くし、身体を沈めて行く。
薄い壁。ごつごつと何かがぶつかり、悶える隣人の声。
喉の奥まで入れるように、細渕が頭を押さえて来る。
「上手くなったな。真理恵。御馳走だ」
飲みきれずに、髪に顔に飛び散る精子。
「真理恵は俺を愛してないのか?」
少し怒った口調の細渕の前で、私は何も言えなかった。
「掃除してくれよ。このままじゃ気持ちが悪いだろ」
冷ややかな目で言う細渕に、私は苦笑してそれに答える。なえてしまった細淵のものを、もう一度立たせるために銜える。
今度いつ会えるか分からない。
ゆっくりゆっくり舌を動かし、亀頭から出る汁を丹念に吸い取る。
「真理恵、俺には真理恵しかいない。ゴメンな今は何もしてやれないけど、必ずいい思いさせてやるから」
細渕の上で、腰をゆっくり動かす私に細渕が優しい声で話す。
分かっている。愛してなんかいない。この人は私が生み出すお金だけを求めている。
それでも私は、ゆっくり上り詰めて行く。
「恵子と別れようと思う。慰謝料が必要なんだ。取り敢えず100万用意できないか」
「出来ないよ。そんなの無理」
「でも、もうこんなの俺は嫌なんだ。すっきりして真理恵と一緒になりたい」
バカ。どうしてそんな優しい顔をしてそんなことを言うのよ。
「今はこれしかないけど」
私から20万を受け取った細淵が嬉しそうに、唇を重ねて来る。
「俺たち幸せになろうな」
嘘でも嬉しい。
今だけはあなたを信じたい。
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