電話の前、まんじりもせずに、ただひたすらに細渕からの電話を待つ。
約束の日が過ぎても一向に振り込まれないお金。
貯金をはたき、カードローンを組んでくれと頼まれて、私は、それだけはと断ったが、一度会って話そうと言われ、細渕の気迫に負けて、その日のうちにローン会社で手続きを済ませてしまった。
薄暗い路地にある雑居ビルの5階に上がって行く。
貧相な感じの男が一人と私より一つ二つ下ぐらいの野暮ったい青年が、にんまりとした顔で私を椅子に座らせた。
ローン会社というのはこんなものなのかなと思いながら、要件を言う私に、ここではかせないと言い出す。
どの位借りられるか事前調査をして。それから紹介すると言う。
腑に落ちない私は、もう一度出直すと言い張る。が、相手はそれを受け付けず、やぼったい青年にがっちりと腕を掴まれ、大手ローン会社の前まで連れて行かれる。
逃げ出したい。けど、怖さの方が先立ち、私は言われるまま借入金額の一割をその青年に渡し、駅前のカフェで待つ細渕に残りの分を手渡しながら、そのいきさつを話すと、眉間に皺を寄せた細渕が、詐欺だな。ぶっ潰してやると言い出し、私の頭を撫で、安心しろ。俺がこのままにさせないと言う。
また、私の中で何かがざわめく。
機嫌よく帰っていく細渕の背中を見送りながら、私は深いため息をつく。
その翌日だった。
知り合いの者に頼むことにしたから、また金が必要になったと、細淵から連絡を受けたのは。
「無理だよ。もうそんなお金ないよ」
「真理恵は悔しくないのか。俺は泣き寝入りは嫌だ。何とかできないか、友達とかから借りれないのか。10万でいいんだ。な、俺も引っ込みがつかないし」
ゆっくりと崩れて行く私の中の倫理。
片っ端から理由を付けてお金を借り捲った私は、細渕の目を覗き込む。
「疑っているのか?」
そんな質問に、私は目を逸らす。
少し怒った顔で、細渕は自分の身分を証明できるものをテーブルに並べ、捲し立てた。
「真理恵は、そんなに俺が信じられないのか? 俺は真理恵の為を思って、ほら曲も出来上がったんだ。何なら今からスタジオに行って歌ってやってもいい。CDにして、作詞名を真理恵にすれば著作権だって得られるんだ。なんなら他の誰かに書けるように頼んでやってもいい。俺は真理恵のためになることなら何でもしてやるつもりだから」
言い返すことなどできなかった。
不安だけが頭をもたげてくる中、私はぎこちない笑みを浮かべ、それに答えた。[
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BKM]