一週間が経ち、何とか詞を書き上げた私は、細渕を改札口前で待った。
細身でぎょろっとした目。前屈みに歩く癖。まじまじと見ると特徴ある人だなと思いながら、私は軽く手を上げてから会釈をする。
頻繁にかかって来ていた電話のせいか、身構える要素をすっかり失くしていた私は、細渕の軽佻な言葉に、あっさり引き込まれて行く。
「なかなかいいじゃん」
手渡した詞を見ながら、細渕がチラリと目を上げて言う。
「もう何人に書いてもらったの?」
今のところ3人ですと答える私に細渕は、意味深な目を向けた。
ん? と首を傾げる私に、細渕は煙草を一本取り出してから、こんなこと俺が言うのも何だけど。と話を切り出す。
「この手の詐欺って、後が絶えないんだ。真理恵ちゃんは大丈夫だと思うけど、念のために言っておくけど、ところで、会いたがったりするやつとかいない? 面倒とか起こったら、俺に言ってくれれば何とかできるから」
「はあ」
この時、すでに私の心は、警告音を鳴らしていた。
けど、それに反するように私は、細渕の話術に引き来られて行ってしまう自分を、止めることが出来ずにいた。
気の抜けた返事をする私に、細渕は改めて名刺を差し出す。
「歌だけじゃ飯、食えないから、タレントの護衛とか、手伝っているんだ。俺、一応空手、3段の資格を持っているから。真理恵ちゃんの為なら何でもしてやるよ」
こんな言葉を信じたわけじゃない。
図ったように携帯が鳴る。
関西野郎だ。
顔を顰める私を見て、細渕の勘が働いたらしい。
「俺は本当に真理恵ちゃんが妹のようにかわいいから、嘘をつくなよ。俺がダメなら恵子にでも話せばいい。あいつも結構修羅場を生きて来た女だからいいアドバイスができると思うから」
例の早口言葉で言い切った細渕は、慌ただしく恵子を呼びつける電話を掛ける。
「ちょうど良かった。あいつ鎌倉の叔母の家にいたからすぐに来れるってよ」
ぎらぎらとした目で言う細渕に、私は戸惑いを見せながら笑みを作った。 [
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