雪が降る冬を越えて
今は春のはずなのに
私の心は冷たい冬のまま

身体に触れる風達は
嘲笑うかのように去っていく
外気はまだ冷たくて
太陽の光は暖かい

"桜の木って人の血で
ピンクに色づくんだよ
知ってた?"

昔、貴方と交わした会話
丁度一昨年の今頃だよね
ねぇ、君は今誰を想ってるの?
私じゃない、誰を見てるの?
私はここにいるのに

ふと空を見上げれば
綺麗な顔して笑う空
街中に目を戻せば
其処には知らない女と
私が愛した人が寄り添って

諦めなきゃって
何度も言い聞かせて
そのたびに流す涙は
地面に落ちて消えていく
まるで儚く淡い恋のように

風が吹く
ヒラヒラと舞い散る桜
2人を祝福しているようで

泣きたくて
叫びたくて
嫌だ、別れたくないよって
大粒の涙を流した私

女々しい自分は嫌いだから
笑って終わりにしたくて

最後の最後まで笑えなかった
ダメな私を許してね
貴方はきっと
馬鹿なことすんなよって
泣いて後悔すると思う
でも、自分を責めないでね

今の女の人と仲睦まじい生活を
私は貴方を応援してるから

"ありがとう"

私は泣いたまま両手を空に向けて
満面の笑みで後ろに身体を預けた

"ごめん‥楽しかった‥ありがとう"

身体を優しく包みながら舞う
桜の花びら達が私に微笑みかけた

その日の桜は赤く色づくように
色濃い桜色に染まっていた

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