◎ 1
立海と氷帝の練習試合の翌日。滝亜は学校へと登校したものの授業に出る事なく、
屋上でサボっていた。
前に怪我をして登校した際に騒がれたのを思い出し、騒がれるのを嫌がったからであった。
でもそれ以外にもある。幸村達への説明が面倒くさいという理由もあった。
そして後は、
「っ、って」
「当たり前です。唇の端切っているんですから。」
何気に会いたくなかった人物。会いたくないと言っても不可能ではあるが、それでも
今日は会うのを避けたかった御杞。
その表情はいつもと変わらないように見える。でもだからこそ、少し怖い。
「ずいぶん無茶な呪詛返しをしたみたいですね。」
「……本人が気を失っているのにどうしろと?」
「ええ。そうですね。」
咎められると思ったが口調はそうではなく一体何の用だという顔で見れば、
目を、右目をさらに細めた御杞。クスリと笑い、でもと続ける。
「態々呪いを自分に向けさせる必要もなかったのでは?」
現場に居なかったのに、滝亜が何をしたかわかっているような表情。
滝亜はため息をつくと携帯を取りだして御杞へと投げ渡す。
それを受け取り慣れたようにメールの画面に進み御杞は眉を顰めた。
「葵衣くんが貴方を妬む理由もわかりますが、ここまでとは」
「まあ、葵衣だけのせいとは言い切れないがな。アイツからしてみれば氷帝に進んで欲しかった両親に反発して立海に進学した俺が信じられないし、それを許したのが信じられなかったんだろう。後は、」
「自分が負かす前にテニス部を辞められたから。そして自分には持ちえないモノをもっているから。」
葵衣を知っているからこそわかった事。妬み、そして恨む理由もわかる。
それを顔には出していないと本人は思っているようだが、出ていた。
氷帝であった時に、家で顔を合わせるたびに。
それを滝亜は知っていたから、あのメールから漂う負の感情が自分にも向けられているのを感じとっていたから。
だからあの時滝亜は送られて来たあのメールと反対の作用が働くようにうちその携帯を忍足に握らせた。
滝亜の携帯であったがそれを忍足の携帯と勘違いしたのだろう。
覆っていた黒い靄は滝亜へと標的を変えた。それを狙っていたのだ。
「まあほとんどが無自覚に呪っていたからどうしてと思っているでしょうね。
中には今でも原因不明の痛みに苦しんでいる人もいるらしいです。」
「はっ、自業自得だろ。呪う奴も……呪われる奴も」
自嘲の笑み。滝亜の浮かべた笑みに御杞はやれやれと息を吐いた。
「あまり気にしない事です。」
「わかってる。それと、会長。一つ報告しておく。」
表情が変わる。滝亜はあの時の事を思い出しながら、言った。
「呪詛返しの時、あの気配を感じた。」
「!」
「おそらくアレが原因で呪いの力が増したと、思う。」
「あの禍々しい、気配がまた」
未だに正体の掴めない気配。探ろうにも一瞬感じるだけでその後は全く気配を感じない。
今回もそれは同じらしい。
「その性で保健室が多少荒れたが、まあ氷帝の生徒会長はなんとか騙せた。」
「そうですか。」
そう呟き御杞は再び息を吐く。でもそれはため息にも聞こえて。
これからどうするべきか、という顔をしていた。
――――to be continue
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