◎ 1
「ねぇねぇ、見てよ。このメール」
「え?何?メール?」
「うん、あのメール。」
休み時間の教室。隣の席の生徒が友達に携帯を見せながら話していた。
内容は迷惑メール。何が書かれているかはわからないが、会話の内容からチェーンメールらしき物だろうと思いながらため息をついた。
「(何がおもろいんやろうな)」
携帯を取り出して、受信ボックスから夜中に届いていたらしきメールを開ける。
それは電話帳に登録されていないアドレスから二通も。
その内容は訳のわからない、解読なんかできやしない。ひらがなとカタカナが無規則的に並べられているメール。
もう一方は同じようにアルファベットが無規則的に並んだメール。
「……まさか来るとわな」
迷惑メールが今までになかったとは言わない。変な、内容の物だったか読む事は出来た。
でも、今回のは違う。
全く意味のなさない文章なのだ。
「……はぁ」
何度目になるかわからないため息をついた時。背後から声がした。
「なんだよ、それ。迷惑メールかよ」
「!!なんや。岳人か」
いつの間にか後ろに立っていたダブルスパートナー。面白そうに画面を覗きこんでいた。
初めて見るタイプの迷惑メールを見てうわぁと顔を歪めていた。
まあこんなごちゃごちゃに並んだアルファベットの羅列など見たくもないだろうが。
そう思いながら何見てんやと頭を軽く叩く。
「迷惑メールなんか珍しい物やあらへんやろ。」
「そうだけどよ。それ珍しいぜ。新しいの来たら俺にも送ってくれよ」
「アホ。そんな事せへんわ。それより何か用があってきたんちゃうか?」
「あ、忘れてた。数学の教科書貸してくんねぇ?忘れちまってよ」
「……しゃあないわ。」
パートナー頼み事にため息を吐きながら机を立ちロッカーに教科書を取りに行く。
その最中ポケットに入れた携帯が振動した。
着信かと思ったが、それはメールで。相手は、あのアドレス。
眉を顰め開ければ同じようにひらがなとカタカナのメールとアルファベットのメール。
「またかいな。」
見る気力もなく後で消そうと思いながら、数学の教科書を取るとそれを借りに来たパートナーに渡し、席に着いた。
ありがとなと教室を出て行くのを見送り先ほどのメールを消した時だった、
隣の女子生徒の話声が聞こえた。
「そうそう、知ってる?あの願いが叶うメールの事」
「何それ」
「なんか、ネットで騒がれてるんだけどね、ひらがなとカタカナのメールとアルファベットだけのメールが同時に来たら願いが叶うんだって」
「え。なにそれ。」
「詳しくは書いてなかったんだけどさ、どっちかが神様からのメールで消さないで置くと願いが一個だけ叶うんだって。」
「なにそれ。迷信でしょ。」
「でもそうでもないらしいの。みんな探し物が見つかったとか、彼氏ができたとかさ言ってるんだ。」
「ふーん。」
「あ、信じてない。でもねなんかアブナイ噂もあるんだ。」
「?」
「なんかね―――――」
その先を言おうと口を開きかけたがタイミング悪くチャイムが鳴ってしまい。
話しは終ってしまった。
そんな話を聞いて、
「まさかな」
そうポツリと呟いた。
それは異変が起こる一週間前の事。
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