◎ 1
青春学園の校門前。門柱に御杞は持たれかかり、手塚を待っていた。
今日ここを訪ねたのは手塚の母親の誘いを受けたから。
そして自身の母親からも久しぶりにと、そしてついでに届け物をして欲しいとの事だったから。
でも、それを頼まれなくても、御杞は少しだけ手塚と話したかったのだ。
相談したとしても、迷惑をかけるだけである事は分かっているけれど、でもそれでも。
「……駄目、ですね。」
前回の件を未だに引きずっている。自分自身が一番わかっていた。
平気だと周りに言うものの、平気ではないのだ。あんな光景を見て、
人の悪意によって生み出された害なすモノを見るのは嫌なのだ。
ふぅと息をついた時、ドンと背中に衝撃が走った。
振り向けば頬を突かれた。
「おっひさー、鳳凰寺さん」
「菊丸くん」
部活を終え、帰宅する所だったのだろう。テニスバックを肩にかけていた。
走ってきた方向を見れば手塚や大石、そして青学レギュラーもいた。
多分自分の姿を見て走ってきたのであろうと想像できた。
「手塚に何か用かにゃ?」
「ええ。夕食に誘われたんです。」
「……ええ!?あの、手塚が!?」
一瞬の間をおいて菊丸が驚き歩いてくる手塚に目を向ける。
そんなに驚かれる事だろうかと思ったが、多分菊丸が勘違いするであろうと思って御杞は言った。
「おば様に誘われたんですよ。」
「にゃーんだ。手塚が誘ったのかと思ったにゃ。」
手塚が誘うとか考えられないけどと菊丸が小さく呟いたのが聞こえ、御杞は苦笑いを浮かべた。
そんな会話をしていると、手塚を含め青学レギュラーが歩いて来る。
彼等の中の一人の姿を見て御杞は眉を顰めた。
正確にはその人物の肩にある、人ならざるモノの手を見つけたのだ。
「(あれは。)」
害あるモノか、害なきモノか。すぐに判断はついた。
中途半端な手。害を与えはしないけれど、無害とは言い切れない手であった。
憑こうとしているモノではないし、そのうち外れるだろうと結論付け、歩いてくる手塚に手を振る。
すると手塚は大石達に声を掛け駆け寄ってくる。
「すまない。待たせた」
「大丈夫ですよ。色々と考え事していましたから。」
クスリと笑い答える御杞。でもその笑みを見て手塚は一瞬だけ眉を顰めた。
そして彼にしては珍しく、少々乱暴に御杞の手を取りまた明日と言い帰っていく。
手塚の行動に御杞は勿論、側に居た菊丸も驚いていた。
「手塚大胆にゃ」
「エージ先輩、何があったんすか?」
「手塚が乱暴に手取って帰っていったにゃ」
普段の手塚からは考えられないその行動に誰もが驚き、二人が歩いて行った方を見ていた。
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