とある生徒会長の怪奇談 | ナノ
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放課後の生徒会室。グラウンドで活動している生徒達を見ながら御杞は大石と電話で話していた。
ついこの前の事でお礼をと思い手塚に教えてもらったらしい。
勿論手塚からその事についてメールが来ており構わないと返信したから電話番号を知りかけて来た。

早海裕也の件のお礼を、と。最初に言ってそして次に聞かされた事に御杞は一瞬だけ驚きの表情を浮かべた。


「綾子さん引っ越しなさるんですか。」


【うん。昨日連絡があったんだ。あの家は自分には広いからって。】


本当はそんなんじゃないらしいんだけどねと続ける大石。それは御杞も同感だった。
彼女はきっと裕也の心残りがなくなったからあの家を出るのだと思っていた。
彼女があの家に、孫が死んだ場所にいたのは孫の心残りをなんとなくではあるが察していたから。
大石がくるのではないかと思っていたから。そして裕也の願いは叶い、その心残りは晴れた。


「それで、どちらに引っ越されるのですか?」


【うん、大阪の娘夫婦の所に行くらしいよ。前から来ないかって言われていたらしくて。
裕也くんがいるかもしれない、っていう理由であの家にいたらしいから。】


「そうですね。その理由なら綾子さんがあの家にいる理由はもうないですからね」


裕也はもういない。あの時目の前で消えた。それはあの世と呼ばれる所に行ったという事。
この世への未練はないという事。


「それより、裕也くんのプレゼントはなんだったんですか?」


【リストバンドだったよ。俺がテニスをしているって知ってたから。】


包の中にはメッセージカードもあったらしい。そのカードにはテニス頑張ってね、と
ずっと友達でいてねと書かれていたらしい。
そのカードは綾子から譲ってもらった裕也の写真と共にアルバムにしまったと聞いて御杞はそれなら大丈夫ですねと言った。
それを疑問に思った大石に聞かれ御杞は答えた。


「あの包にはとても強い思いが込められていました。裕也くんの思いが。
きっとそのカードも同じでしょう。
それは貴方を守る物になりますから。」


【守る、物?】


「はい。きっとよからぬ事から貴方を守ってくれますよ。」


【あ、うん。なんとなくわかる気がする。】


暖かいからと。持っていて安心できる。どこにでも売っているようなリストバンドだったし、カードも同じ。
でもその暖かさを感じたのはきっと裕也の思いが込められているから。
大石はそう思っていたし、それを御杞も肯定した。


【そうだ、英二から伝言なんだけど。】


「菊丸くんからですか?」


【ああ。また遊びに来てほしいって。手塚の頬ムニッてつまむのを見せて欲しいって】


「……よっぽど仏頂面なんですね、部活中は」


【いつもの事なんだけどね。】


互いに苦笑していた。確かにあの手塚にちょっかいをかける人間なんて青学にはいないと思う。
からかう人物はいるとしてもだ。


「でも、また遊びには行きますよ。」


【英二にそう伝えておくよ。】


受話の方から大石を呼ぶ声が聞こえる。部活が始まる時間なのだろうと思いながら時計を見る。
結構長話をしていたらしい。


【ごめん鳳凰寺さん。英二が呼んでるから、】


「いいえ、こちらこそすみません。長話をしてしまって。ああ。そうだ手塚にテニス、頑張ってくださいって伝えておいてください。」


それではと言って電話を切る。そしてドアの方に目を向けた。


「もういいですよ。滝亜」


そう声をかければ、電話なげぇよと滝亜が入ってきた。







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