◎ 1
「本当に行くんスか?」
「お前が言ったじゃねぇか。」
「お、俺は仁王先輩の話を聞いて面白いっすねって言っただけっす。」
「その後に行きたいと言うたんはどこのどいつじゃ?」
「うっ」
もう夜に近い時間。普段は誰も寄り付かないであろう廃墟となっているその建物の前に三人の中学生が立っていた。
テニスバックを肩にかけているところから部活帰りであるといえる。
三人の前に建っている廃墟。
立ち入り禁止と書かれた看板も塗装が剥げ錆びており、入り口にかけられているロープも切れてしまっている。
立ち入りを禁ずるものとしては無意味になっていた。
そんな場所に入ると、いう事は彼等の年頃からすると、所謂肝試しという物だろう。
時期的には少し早いとは思うが。
「気にすることねぇって。幽霊がでるなんて嘘に決まってんだろぃ」
「じ、じゃあ丸井先輩から入ってください。」
「う……ここはお前に譲ってやる」
俺も遠慮しますよと今更になって口論になる二人。
それを見ていたもう一人がため息をついた。
「なら二人一緒に入りんしゃい」
と言って二人を押した。その際なんでだよと聞こえたが銀髪の少年は聞こえないふりをした。
三人が入ろうとしているのは元々病院だった場所。
廃院となって何十年と達、廃墟となったのだ。
だからなのかよくない噂もたっている。
不良のたまり場やら危ないクスリの取引が行われているやら、
――――幽霊がでるなど
少年達が聞いたのは幽霊が出るというものだった。
「ほ、本当に出るんすかね?」
「し、知らねぇよ。俺も友達から聞いただけだからな」
ビクビクとしながら歩いていく二人を見ながら怖いなら最初から来なければいいと銀髪の少年は思った。
最初は単に好奇心だったが、前の二人は好奇心とあとは度胸試しといったところだろう。
「それで、その幽霊とやらが出るんのはどこじゃ。」
「3階って言ってたぜ」
「なら3階じゃな」
行先を確認していると騒いでいた少年が階段を見つけその方を指した。
三人共顔を見合わせ頷くと階段を上り始めた。
「それで、どんな幽霊がでるんじゃ」
「確か、医療ミスで死んだ患者とそれで自殺した医師の霊って言ってたぜ」
それを聞いて一人はまじっすかと驚き、もう一人はありきたりじゃのうと呟いた。
階段を上がり三階についた。
そこは無音で、自分達が呼吸している音しかしない。ゴクリと誰かが息を呑んだ。
ゆっくりと歩きだした。
無造作に開け放たれたドア。ちらりと中を見れば金属の骨組みだけとなっているベッドボロボロになった仕切りのカーテン。病院であったという名残がまだ残っていた。
部屋を二つほど通り過ぎた時、
「ん?」
一人が何かに気づき、足を止めれば後ろを歩いていた二人もそれに倣い足を止めた。
足音がなくなり再び無音、にはならなかった。
ズル、ズル、という音がした。
何かを引きずる音。それがどんどん大きくなっていく。
「な、なんだ?」
自分たち以外にも誰かいるのだろうかと辺りを見回していると、一人が震えながらある方向を指差した。
その方向には体を引きずる女がいた。
『あア゙、アアア゙』
体を引きずりながらこちらを見て、折れている右腕を伸ばして。助けをこうように伸ばしてきて、
瞬間、悲鳴をあげ少年たちが走りだした。
走って階段を駆け下りてもうすぐで出口だというところで、今度は白衣を着た男がいて、
赤髪の少年を掴もうと手を伸ばして。
「先輩!!」
三人とも必死に走って外に出た。日は完全に落ち夜だった。
そして先ほどの出来事が嘘であったかのようにあたり一帯、静寂に包まれていた。
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