1
結局試合は吏苑と些那知の勝ち。
でも吏苑の怒りは収まらないのか、未だに赤也を睨んでいた。
些那知はもう赤也を見ておらず、嫉妬の情を紅陽に向けていた。
華弥が紅陽の頬の手当てをしているからか、
心配そうな顔をしているからか。
どちらにしろその原因は赤也であるからもはや様々な、良いとは言えない感情を向けているのに変わりはない。
そして、試合が残っている琉規や遊埋も同じ。
「あの野郎。俺だったら潰してやるのに。」
「その気持ちは分かるが、潰すなって言われてるだろ。琉規。」
ギリッと歯を噛み、赤也を睨む琉規に衣加八は同意しながらも止める。
先程の件で赤也に対する印象は変わったであろう事はわかる。
気に入らないどうこうよりも、この合宿で潰す気だ。
そして咎める事がなかった立海の面々を。
下手すれば合宿の参加者全員を。
衣加八はため息をつき、赤也に目を向ければ愛里が心配そうに手当てをしているのが目に入る。
その顔はどうしてここまでという顔。
知らないわけはあるまい。赤也がどれだけの選手を傷付けてきたのかを。
なのに自分の時は被害者面して、と思えてしまう。
樹多も同じ事を思っているのか、眉を潜めている。
「琉規ー。」
「あ?」
「口の聞き方。ま、いいや。イラつくのは分かるけど相手は他校の部長だから。
八つ当たりは駄目だよ。」
珍しく真剣な顔で、淡々と告げる樹多。
琉規はうるさいと口を開きかけたが樹多が向けた目に舌打ちをし、
ラケットを手に取りコートに入る。
「本当はあのワカメ野郎をぶっ潰したかったが、吏苑の奴と組むのはごめんだ。
部長相手だからいいと思ったが、お前に興味なんざねぇしな。」
ネットを挟み、手塚を見る。
手塚は琉規の言葉に珍しく苛立ちを見せていた。
「俺では不満か?」
「ああ。不満だな。プロが注目しているらしいが、
そんなの関係ない。多少は楽しませてくれると嬉しいがな。」
ニヤリと琉規は笑った。でもそれは明らかに手塚を見下している笑みで、
それがわかったのか菊丸や桃城が負かしちゃえや、何言ってんだと叫ぶ。
それは他も同じようでムッとした表情を浮かべていた。
琉規がふんと鼻で笑い一瞬だけ愛里に敵意の籠った目を向けた。
「それに、そこの女がいる学校の部長っていう時点で気に入らねぇし、
……ああ。そうだ。お前潰せば、あの鬱陶しいマネージャーも少しは黙るか。」
それが誰を指しているか、なんてすぐにわかった。
青学の面々だけでなく氷帝や立海、四天宝寺も琉規に、
彼が言った言葉を取り消せと言おうとしたはそれを手塚が制し、
言った。
「琴梨はよくやってくれている。何が気に入らん。」
「なんであんな奴を気に入る必要があるんだよ。」
さも当然と言わんばかりに間髪入れずに答えた琉規。
踵を返し、大川に始めろと告げた。