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一触即発の空気。幸村と跡部の機嫌はさらに悪くなり、切原や菊丸はあからさまに紅陽達を睨んでいた。
白石と大石はそれぞれなだめていて、手塚は何かを考えているようだった。
「大石はムカつかないのかにゃ!?あんな言い方されて!」
「わかるけど、落ち着け。試合に勝てないぞ。」
もしかしたら作戦かもしれない。と大石が言えば菊丸は黙り、
切原も納得してはいないが静かになった。
そう、もしかしたら彼らの作戦である可能性もあるのだ。
苛立たせ、些細なミスを犯させる。
菊丸もそれがわかったのか、不満げな顔をしながらもわかったよと呟いた。
大石はよかったと息をつき、柔軟をしている樹多とコートを見ている衣加八を見る。
二人から緊張感は全く感じられない。
彼等がどんなプレーをしてこようと、勝たなければと気を引き締める。
一方で樹多はいつも通り柔軟をしながら衣加八に話しかけた。
「衣加八ー。どーする?作戦」
「お前の好きなように動け。どうせ話し合ったところで、勝手に動くだろうが。」
「へへ。よくお分かりで。」
屈託のない笑みの樹多に衣加八はため息をつく。
そして紅陽に目を向けた。
「で?それで良いわけ?」
「作戦はそれぞれに任せるよ。私が望むのはただ一つ。
彼等に絶望の種を植え付けて、自滅させて、
勝つ事だもの。」
足を組み淡々と言えば、樹多は大丈夫だよ!と返事をした。
「紅陽にあんな目向けた子達なんて、あたしは許す気もないし、
手加減する気ないし。」
よっ、と立ち上がりウェアに着いた砂を払い、キッと未だに遊埋や紅陽を睨む者達を睨む。
その目は捕食者のような、獲物を見つけたような目。
まるでそのタイミングを謀ったように大川が言う。
「それでは。試合を始めます。第一試合はD2。
選手はコートに!」
じゃ!行ってきまーす。とコートに入る樹多とやれやれといった様子の衣加八。
菊丸と大石もコートに入り、菊丸は樹多達を睨む。
大石が慌てて止める前に衣加八が言った。
「ふ〜ん。ま、俺の好みじゃねぇな。」
値踏みするような目。菊丸が何か言おうと口を開きかけたが樹多が衣加八の頭を叩き、言うタイミングを逃した。
「駄目だよ、衣加八。あたしのエモノなんだから。」
樹多がそう言った瞬間だった。空気が重くなった。
舌嘗めずりをする樹多はまるで、ご馳走を前にする子供のようで。
「さぁーて、どう料理してやろうかな。」
嗤って言った。
衣加八もククッと笑い大川に始めようぜと言った。
大川は菊丸と大石に目を向け、二人が頷いたのを確認した。
「それでは、サーブを」
「サーブならやる」
既にベースラインにいる衣加八。樹多はえーという顔をしたがま、いいやと呟いた。
菊丸は怒りを露にしたがなんとか落ち着けていた。
二人も位置につき、大川は言った
「ザ・ベスト・オブ1セットマッチ、大石サービスプレイ」
静寂。そして、サーブ。ラリー。声援。
でもその声援は漆世からは全く聞こえない。
静かに試合を見ているだけ。
「応援しぃへんのか?」
白石がポツリと呟いた時、静寂になり、
「0ー15」
大川のコール。そして唖然としている菊丸に大石。
静かに、でも満面の笑みを浮かべている樹多。
何となくではあるが、白石は嫌な予感がした。
それと同時に思う、自分だけではないと。
おそらく手塚や跡部、幸村も。理由のわからない、嫌な予感。
コートを見ていたから気付かなかった。
紅陽が見ていて、笑った事に。