1
その日の天気は快晴だった。朝はいつもと変わらない光景だった。
コートに集合し点呼を取る。そして練習メニューを発表する。
今日も変わらないはずだった。
「今日の練習は無しだ。」
漆世の部員は、大川がそう言ったのを静かに聞いていた。
各自自由にと言うだけ。
大川が踵を返し華弥の元に寄り何かを話し始める。
それを見ながら部員達は話し出す。
「今日、か。一体何人残るんだろうな。」
「さあな。部長達がどうするかによるだろ。」
「そうなるな。」
ウォーミングアップをする、漆世レギュラーを除いた参加者達を見る。
入念に行っているのは、
菊丸と大石。白石と切原。手塚。跡部。幸村。
本気なのだろうが、でもそれでも無理だろう。
と漆世の誰もが思っていた。
一方、これなら勝てるだろうと愛里は思っていた。
全国区の四校がそろい、そこから選ばれたこのメンバー。
愛里だけではない。四校のレギュラーの誰もが勝てると思っていた。
「!おはようございます。」
コートに現れた紅陽達に大川は頭を下げる。
様子は変わらず、これから試合を始めるという雰囲気ではなかった。
華弥は手にドリンクを持ち走り寄る。
「おはようございます。紅陽先輩。」
「様子は?」
「はい。彼等がオーダーを発表していました。
あちらでアップをしているのが、相手です。」
一瞬だけ見ただけだった。
目を向けて側にいた遊埋と何かを話し出す。
今度は吏苑が華弥に聞いていた。
「D2は、」
「D2は大石、菊丸ペア。D1は白石、切原ペア。
S3は手塚、S2が跡部、S1が幸村です。」
それを聞いて、琉規が舌打ちをした。
切原と試合をしたかったのだろうが、切原はダブルス。
生粋のシングルスプレーヤーである琉規にダブルスをやるという選択肢はない。
自然的に相手は決まってくる。まあそれは些那知も同じなのだが。
だからだろう。些那知も舌打ちをしていた。
「二人共諦めろ。それとも、琉規、俺と組むか?」
「ごめんだ。お前と組むぐらいなら此野と組んだ方がまだマシだ。」
「だろうな。それに紅陽がそれを許しはしねぇよ。」
わかったらアップしとけと琉規の頭を叩き、紅陽と遊埋のそばに寄る。
おそらくオーダーの事を話しているのだろうがでもそんなの関係はない。
「琉規は残念だったな。あの赤目と試合できないからな。」
「まあ、仕方ないさ。俺達は予想通りだったけどな。」
珍しくパソコンを持たずにいる遊埋。
しかしその目は普段と変わらない。何かを欲する目。
吏苑はため息をつきたくなったがそれを我慢し、自分の相手となる白石と切原を見る。
聖書と呼ばれる白石蔵ノ介。立海の二年エース、悪魔、切原赤也。
おそらく琉規と当てる事を避けたのだろう。
でもそれはある意味で正解とも言える。
気に入らないと一度でも思った人間をあの琉規が潰さないという事はない。
そしてそれさえも当たり前だと彼は言う。
吏苑は息をつき、今度は跡部と幸村に目を向ける。
「遊埋の相手は帝王で、紅陽は神の子。か。
大丈夫か?」
「関係ないよ。相手が誰であろうと。」
やる気そのものを感じさせない目。
でも、紅陽は口元を歪め、嗤う。
「この私が神の子ごときに負けると思う?」
その顔はもう一つの顔だった。
この異端ばかりの漆世の上に立つ者の顔。
それを見て遊埋はククッと笑った。