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試合が決まり、夕食も終えた。
それぞれが自由に、青学、氷帝、立海、四天宝寺のレギュラー達は明日の練習試合に向けてそれぞれ自主練をしていた。
そんな光景を紅陽と樹多は見ていた。
紅陽は無表情で、樹多は興味津々に、全く真逆の表情を二人はしていた。
「……ご苦労様。」
ぽつりと紅陽は呟く。
どうしてそこまで勝利にこだわるのか全くわからないでいた。
彼等は、自分達の手の内がばれていないと思っているのだろうか。
彼等のプレースタイルや傾向などはすべて頭に入っている。
全てを欲する、強欲である遊埋が色んな手を使って手に入れたから。
そして彼等は自分達の情報など持っちゃいない。
だからこそその時点でどちらが優位であるかわかる筈なのに。
「自信があるのかそれとも余程の馬鹿なのか。どっちだと思う?」
「え?う〜ん。どっちもじゃない?皆そんな顔してるし」
食後のデザートにと作って貰ったらしいチョコレートケーキを食べながら樹多は自主練の様子を見る。
そして、菊丸と大石を見て、舌なめずりをする。
「あの子、達かぁ。」
「喰らい尽くす?」
「喰らい尽くしはしないよ。でも、ちょっと残すだけ。」
美味しそうな物を前にしている時の顔をする樹多。
カタとフォークを置き、笑って、持つ元が現れそうな顔で言った。
「どんなプレースタイルでも、料理は出来るんだもの。
本当は残したくないんだけど、紅陽が潰すなって言うから」
渋々、まるで好きな物をあげるという顔をする樹多。
紅陽はクスリと笑った。
「私、樹多のそういう所大好き。」
「……本当?すごい嬉しい!」
ガバッと樹多は紅陽に抱きつき、そのままコートを見て睨み付ける。
こちらを見ている海堂、切原、宍戸、鳳、そして幸村と跡部。
「……鬱陶しいな。」
特に幸村と跡部。いっそのこと潰してしまおうかと思いながら、立ち上がり
乱暴にカーテンを閉めた。
「これだから何も知らない餓鬼どもはいやだ。」
「だね。なーんにも知らないで呑気に暮らしてるんだもんね、みんな。
あたし達の苦しみなんてさ。」
「知れって言う方が難しいかもしれないけれど、
それでも鬱陶しい、ウザい。潰してしまいたいほどに。」
そこまで言って紅陽はククッと笑った。
「駄目だね。他のが出てきそうで、」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。罪の元は、怠惰だからね。
他のはまだ弱いから。」
備え付けのソファーに崩れるように座り、ポケットから錠剤ケースを出してやはり量を気にする事なく適当に手の平に出して飲む。
樹多は水を取ってくるといい、立ち上がろうとしたが紅陽がそれを止めた。
心配そうな顔をしながら樹多は腰を下ろした。
紅陽はガリッと歯で噛み砕いて。
「でも可哀想。私達に喧嘩売って、無事でいられるわけないのに。
無事でないから、外との交流が切られたのにね。」
そこまで言って、
「大罪の種を持つからこそ、異端とされ孤立させられたのに。
本当に気に入らない、あの男は。」
ゴロンと転がった。