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時は少し前に遡る。華弥がドリンクのボトルを下げようとコートへと来た時、愛里に話しかけられた。
愛里の後ろには桃城と海堂。
華弥はため息をつきたくなったがそれを我慢し向き直った。


「……一体、何の用ですか。琴梨先輩。」


正直な話。愛里は嫌いな部類だ。
以前にパーティーで一度だけ話した事はあったが、それ以来ダメだった。
性格が合わない。自分は正しい事をしているという、思い上がり。
なによりも紅陽へとそれを向けた事が嫌だった。
誰よりも敬愛し尊敬している紅陽にこの学園では通じない正義を向けた事が何よりも許せなかった。

でも目の前の彼女はそれすら気づかないだろう。自分がどんな感情を持っているかなど、気付きやしない。


「あ、えっと」


「早くしていただけませんか?紅陽先輩、部長達のボトルも回収しにいかないといけないので。」


苛立ちは多少隠しているもののそれでも話しかけるなという態度を取る華弥に桃城が言った。


「そんな言い方ねぇだろ?別に何時間も話すわけじゃねぇし」


「琴梨先輩が何を話したいかは大体想像がつきます。
そしてそれは私が一番嫌いな話。
だから余計にです。」


踵を返し歩き出そうとした華弥だが、桃城に腕を捕まれる。
眉を潜めたがそれを出す事はなく、向き直る。


「話ぐらい聞いてもいいじゃねぇか。何がそんなに気に入らないんだよ。」


それは誰もが抱いていたであろう疑問。
驕りなどではない。自分達は全国区だからそんな学校との合同の合宿は普通は嬉しいと思うのに。
漆世はそんなの関係ないというように、自分達で練習を進め全く関わろうとしてこない。


「気に入らない。それは紅陽先輩達に直接聞けばいいこと。なのになぜ私に聞くんですか?」


「そ、それは、神奏さん達は別のコートだし。」


「正直に言えばいい。レギュラー達、特に紅陽先輩と遊埋先輩怖いと。」


なにも言えなくなる桃城と海堂。
でも愛里は食い下がる。


「こ、怖い、けどね。でもやっぱりみんな仲良くしないと、!!」


「それが余計なんだよ。」


背後から聞こえた声。勢いよく振り向けば遊埋と紅陽がいた。
紅陽は相変わらず興味なさげな顔をし、遊埋は面白そうに笑っていた。
でも目は笑っておらず口だけで笑っていた。


「言ったはずだ。君みたいな、君達みたいな人間、漆世は嫌悪する。
だから近寄らず、関わらない。


むしろ関わって困るのは君達の方だ。」


「その意味がわかんねぇんだよ!」


黙っていた海堂が遊埋に食らい付く。それを紅陽は冷めた目で見ていた。
それに気付いた海堂は紅陽を睨み付けた。
睨み付けて動けなくなる。


「っ!!」


動けない。動く事が出来ない。手足を、体を、
息する事も許さないと言われているようで、


「海堂!?」


「!!」


桃城に呼ばれ我を取り戻す。紅陽は一瞬だけ笑った。
口元を歪めていた。その笑みに気付いた華弥と遊埋は驚いた。


「……去年。君達みたいに後先考えない馬鹿が一人入部してきたんだ。
まるで、自分に勝てる者など、自分の思い通りにならない人間なんていない、って思い上がっていた馬鹿がさ。

似てると思わない?なんでも自分が正しいと思い上がっているそこのマネージャーさんにさ。」


二人は紅陽が何を言いたいかわからなかった。でも言った事を思い返し、怒りを露にした。
愛里を馬鹿に、思い上がりと言ったから。
頭に血が上った桃城は紅陽の胸ぐらを掴み、引き寄せようとしたが、
腕を捕まれた感触のすぐ後に視界が反転した。

遊埋に捩じ伏せられている。そう気付くのに時間がかかった。



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